第五百十八話 勤務先リスト
校舎西側の掲示板には、ずらりと実習先の店名が貼りだされている。
「わあ、色んな店があるね!」
掲示板の前は人だかりができており、皆が熱心に名前を眺め、どこにしようかと話し合っている。
わたしは、リストを端から順に眺めていく。
「武器屋に鍛冶屋……。あ、魔法薬店もあるね」
「飲食店もたくさんあるわ」
とセレーナ。
リーゼロッテがつぶやく。
「これだけあると、本当に、どこにするか悩んでしまうな……」
するとセレーナが言う。
「そうね。でも、一度きりの体験だから、よく考えましょう」
その言葉に、わたしも同意する。
「うん、せっかくの機会だもんね。思う存分、悩もう!」
◆
それから三日間かけて、わたしたちはじっくりと勤務先を吟味した。
その結果、六人みんな、なんとか自分の希望を絞り込むことができた。
リーズは、やはり武器屋に決めた。
それもなんと、あのハロルドさんの営む武器屋さんだ。
「あそこは、お店で作刀もしているらしいの。それで決めたわ。……ちょっと店主に問題があるかもしれないけれど」
そう言うリーズにわたしは、
「大丈夫だよ。前にも言ったと思うけれど、ハロルドさん、根はやさしい人だから」
と声をかけるが、一抹の不安はある。
(どっちも血の気が多いからニャ)
なんて、にゃあ介も言う。
「喧嘩をふっかけてくるなら、こっちだって黙ってないわ。あの店主なら、いい鍛錬相手になりそう」
拳を握るリーズに、
「ちょ、ちょっとリーズ、実習しに行くんだからね」
わたしは引きつった笑いを浮かべる。
「……チコリはどこにするの?」
「あたし、雑貨屋さんに決めたの」
「雑貨屋さん?」
「前に、みんなでお買い物に行ったお店があったでしょ? あたしが……」
チコリはポケットから小物入れを取り出す。
「これを買ったお店」
小物入れにあしらわれているのは、かわいらしいクマのアップリケ。
たしかワー・ベアをデフォルメしたものだ。
「あたし、あのとき初めて、自分の好きなものを買ったの。だから忘れられなくて」
「そっかー。いい選択だね!」
わたしは賛成する。
「セレーナさまは、どうするんですか?」
チコリが訊ねる。
「私? 私は、食堂よ」
と、セレーナは答える。
ぎくり、と皆の動きが止まる。
「食堂?」
「そうよ。商業地区の一角に、いい雰囲気のお店があるの。大きい食堂ではないけれど、やりがいがありそうだと思って」
「そ、そっか。セレーナはやっぱり飲食店か」
わたしは言う。
「がんばってね、セレーナ」
「ありがと、ミオン」
そう答えるセレーナに、心からがんばってほしいと思う。……お客さんのためにも。
「で、リーゼロッテは?」
「私は、工業地区の、魔法具工場だ」
リーゼロッテが答える。
「私はあまり魔力が強くないのでな。武器や防具に魔力を付加する仕事について学びたいと思ったんだ」
「そうかあ」
わたしはうなずく。
「リーゼロッテならきっとうまくやれるよ」
そう言うとリーゼロッテは微笑む。
「さて、じゃあ……」
わたしはセタ王子に訊ねる。
「王子はどこにしたの?」
すると、セタ王子は、
「ぼ、僕は魔法具工場です」
「おー。リーゼロッテと同じじゃん」
「……じ、実は、前から興味があったんです」
「ふ~ん?」
セタ王子は耳まで赤くなる。
わたしは思わず吹き出しそうになる。
(ぬけぬけとよく言うニャ~)
にゃあ介の言う通り、リーゼロッテ目当てなのはバレバレだ。
しかし当のリーゼロッテは、
「そうか? 奇遇だな」
なんて、まったく気づいていない様子。
「ととと、ところでミオンさんは?」
話をそらそうと、セタ王子が質問してくる。
「え?」
「ミオンさんは、どこにするんですか?」
「……えっとね」
わたしが言いよどんでいると、
「どこなの、ミオン? もったいぶらないで教えて!」
チコリが言う。
みんなの視線がわたしの方を向く。
わたしは鼻の下をこすりながら、答える。
「へへへ~。わたしはね……」