第五百十七話 説明会2
「ほら皆、静かに!」
特別教室では、ショウグリフ先生による説明が続いている。
「これはただの職業体験ではない。授業の一環である。授業だから当然、成績をつけることになる」
先生は、でっぷりとした腹に手をやり、教室内を見回す。
「特別実習の成績については――」
成績の話と聞いて、生徒たちの目の色も変わる。
「諸君がお世話になるお店の方の採点、および客の評判、店の売り上げなどを勘案して、総合的に行う」
おぉ~という皆の低い声。
リーゼロッテがメモを取る。
「勤務先による採点、それに評判、売り上げか……」
リーゼロッテは納得したように、
「なるほど、働きぶりが成績に直結するのだな」
と眼鏡をずり上げる。
「であるからして……」
ショウグリフ先生は言った。
「皆、まじめに働くように」
◆
「ミオン、聞いた?!」
その日の昼休み、食堂へ行くと、チコリがさっそく興奮した様子で話しかけてきた。
「特別実習の話!」
チコリたち二年生への説明会はまだのはずだが、すでに学校中で話題になっているようだ。
食堂は、どこもかしこも特別実習の話でもちきりだった。
「うん。聞いたよ」
「あたしたち、ルミナス商業地区のお店で働けるんだって!」
と、チコリ。わたしは、
「工業地区の工場でも実習できるみたいだよ」
と補足する。
「そうなんだあ。どうしよう、あたし下働きとメイドしかやったことないし、ちゃんとできるか心配だなあ!」
そう言いながらも楽しそうなチコリに、
「ふふ。わくわくするね」
そう声をかける。
正直に言うと、うまくやれるかちょっぴり不安もある。
でもやっぱり、期待の方が大きい。
異世界のお店で、働く。それも魔法の知識や技術を使って。
それが魔法学校の課題だというのだ。
面白そうじゃないか。売り上げが伸びれば、成績も伸びる!
わたしたちは、食事中も特別実習の話を続けている。
リーズが言う。
「私は、武器屋か、鍛冶屋に行ってみたいわ。前々から、剣を鍛える仕事に興味があったのよね」
武器屋か……。たしかに彼女に合っている気がする。
セレーナは、
「私はやっぱり、飲食店とかかしら……」
と話す。セレーナがやりたいのは、接客なのか、それとも厨房なのか……お客さんにとっては重要なところだ。
「ふむ。私は魔法具店か魔法薬店がいいな。……いやまてよ。工場でものづくりを経験するのも悪くない。こんな機会でもなければ、体験することもないだろうからな」
と、リーゼロッテ。また、
「うーん、あたしはどうしよう」
チコリは、
「お店番? それとも、掃除、お料理、お裁縫……」
そう悩んだ様子で、
「洗濯、書き物、リーズの言う、刀鍛冶も面白そう」
頭を抱える。
「いっぱいやりたいことがあって、困っちゃうなあ……」
そんな感じで、みんなが口々に理想の働き先について話しはじめる。
「セタ王子はどうするの?」
チコリが訊く。わたしは口をはさむ。
「王子さまが働きに来たら、お店の人がびっくりしちゃうかもね!」
「ちょっとちょっと皆さん、まだお店のリストも発表されてないんですから」
セタ王子の言葉に我に返って、
「そりゃそうだね。セタ王子の言う通りだ」
と思わず笑ってしまう。
手が止まっていたわたしたちは、ようやく昼食を再開するのだった。
◆
翌週、掲示板に、皆が待ちに待った勤務先のリストが貼りだされた。




