表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
516/597

第五百十五話 四年目の授業

 わたしは掲示板の前で、自分の目が信じられず立ち尽くしている。


「まさか……」


 両隣にいるセレーナとリーゼロッテも、同じように掲示板を見上げている。


「まさか、また一緒のクラスになれるなんて!」


 わたしは二人の手をとって、喜びの声を上げる。


「よかったわね! みんな期末試験頑張ったもの」


 そう言うセレーナに、


「しかし、それだけではないような気もするな」


 とリーゼロッテ。


「ひょっとしたら、ガーナデューフ校長が気をきかせてくれたのかも……」

「なんでもいーよ! 三人一緒なら!」


 わたしはリーゼロッテに抱きつく。


「ははは、そうだな」



 後で確認すると、リーズとチコリも同じクラスになれたようだ。

 あるいはリーゼロッテの説が正しいのかもしれない。




   ◆




 魔法学校四年目の授業は、今までより難易度が上がり、より実践的な内容になった。

 炎の魔法、水の魔法、氷の魔法に時の魔法。

 治癒魔法、補助魔法や強化魔法など……

 基礎的な魔法は覚え終わり、これからはそれをいかに使いこなすか、という段階に入っている。


 座学と実技が半々くらいの割合で、授業は進む。

 授業後、


「ミオン、ちょっといい?」

「なあに?」


「炎の魔法と氷の魔法をすばやく交互に撃つことってできるかしら」


 その言葉に、わたしは少し考え込む。


「魔力を変換するイメージが真逆だもんね……考えてやってちゃ間に合わないと思う。やっぱり体に覚え込ませることかな? 反復練習だよね」


 セレーナは前よりも熱心に魔法の勉強をするようになった。

 それが、ユンヒェムのことと関係しているのかどうかは分からない。



 薬草学についても、今までよりレベルが上がり、上級魔法薬と呼ばれる薬を合成する実習などもあった。

 薬草の調合は頭を使わなくてはならない。


「もー! なんでうまくいかないの。リーゼロッテ、教えて~!」


「ミオン、ちょっとは自分で考えるんだ」

(リーゼロッテの言う通りニャ)


 にゃあ介が同意する。


(まず自分で考えるようにしないと、何も身につかニャいぞ)

「むー……。わたしはやっぱり魔法の方が得意だぁ」




   ◆




 新学期が始まってまだ間もないある日の昼休み。

 わたしたちが食堂での昼食を終え、廊下を歩いていると、女の子の生徒が、羊皮紙を抱えキョロキョロと辺りを見回している。


「どうしたの、あなた?」

「次の授業の教室がわからなくて……わっ、セレーナせんぱい!」


 どうやら新入生の女の子のようだ。


「相変わらず有名人だねぇ、この、この」


 脇腹をつんつんするわたしを無視して、セレーナが女の子に訊ねる。


「次の授業は何の科目なの?」

「あの、白魔術の授業です」


 くりくりとした目に、赤毛の、背丈の小さなその少女が答えると、


「白魔術なら、二階のつきあたりの教室だよ」


 とチコリが女の子にそう教えてあげる。


「あっ! チコリせんぱい! ありがとうございます!」


 そう言って少女はぺこりと頭を下げる。


「え、あ、あたし? せ、せんぱい?」


 チコリは戸惑っている。

 少女は頭を上げてチコリの姿を見ると、


「はい、チコリせんぱい。あのぅ、チコリせんぱいのその服……すてきですね」

「そ、そう? ありがとう」


 少女はチコリのメイド服をじろじろと見て、


「私、ルビって言います。……チコリ先輩はメイドなんですか?」

「あ、あの、えと」


 先輩という言葉に過剰反応して、しどろもどろになっているチコリ。

 わたわたしているチコリに、わたしは助け船を出す。


「そうだよ! チコリはセレーナのメイドなんだ。ちゃーんとお給料も貰ってたんだから。いわば、プロのメイドだよ!」

「み、ミオン」


「そうなんですね!」


 ルビは目をキラキラさせると、嬉しそうに、


「私、一人前のメイドになるために、家事に役立つ魔法を学びに魔法学校に入学したんです。チコリ先輩! メイドのこと、色々教えてください!」


 と頭を下げる。

 チコリはまだ口をぱくぱくしている。


「あ、もう行かなきゃ……! せんぱい、ありがとうございました!」


 そう言って女の子はもう一度頭を下げると、二階へ続く階段の方へ廊下を走っていく。


「やっぱり、新入生は初々しいねえ」


 わたしはその後ろ姿を眺めながら言う。


 隣を見ると、チコリがまだ口を開けたまま突っ立っている。

 ようやく我に戻ったかと思うと、


「……ねえミオン、聞いた? あたしのこと、チコリせんぱいだって!」


 と頬を紅潮させて、興奮気味に話す。

 その様子がおかしくて、わたしは笑ってしまう。

 

「あたしが先輩! どうしよう、ちゃんとせんぱい務まるかな? 話し方、子供っぽくないかな? ああ、もっと背が高かったら……」

「まあまあ、落ち着いて、チコリ」


 初めて後輩ができて、わたわたと落ち着きなく動き回るチコリを、わたしたちは微笑ましく見守るのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ