第五十話 第一の試練
校庭は拍手に沸いていた。
運動会みたい、とわたしは思った。
空を見上げると、どこを向いても雲が見あたらない。数羽の鳥の群れが並んで飛んでいるのが見えた。あれはシズだろうか?
そんな抜けるような晴天のもと、大会は開催された。
校庭には、3メートル四方ほどのオーク材で出来た壇が設けられ、その両脇に、先生が皆集まっている。
その周りを応援の生徒たちが遠巻きに囲み、そして壇の前には、参加チームが並んでいる。
ショウグリフ先生が壇上に立ち、声高らかに言う。
「今大会には、十八組の参加者がありました。勇気ある皆さんをたたえましょう」
また拍手が起こる。
「これより皆さんに、三つの試練に挑戦していただきます」
今度は、ショウグリフ先生の言葉を聞き漏らすまいと、みんな耳を澄ます。
「優勝チームにはレジェンド・オブ・ルミナスの称号と賞品が送られます」
賞品……あの三つのアイテムね。ルミナスブレード、欲しい!
「第一の試練は、魔法薬に関する問題に回答してもらいます。最も早かった、一位の者には100ポイント。二位には90ポイント。以下、80、70……とポイントが与えられます」
そして、右手をすっと上げ、
「問題は魔法薬草学のエオル先生に作成していただきました。エオル先生によると自慢の難問だそうです」
ショウグリフ先生に紹介されたエオル先生は満面の笑みで、お辞儀した。
「よろしいですか。それでは第一の試練を発表します」
しーんと静まりかえる校庭。エオル先生は言った。
「薬草、<アルパネイブル>の効果と、その発見者を正確に答えよ。回答権は、一組につき一度だけ。間違えたらその場で失格とします」
みんながあっけに取られる中、ショウグリフ先生は両手を高々と掲げ、叫んだ。
「それでは、ルミナス・ウィザーディングコンテスト、スタート!」
「どうしよう、全然わかんない」
「私も初耳だわ。アルパネイブルなんて」
するとリーゼロッテが言った。
「まてよ、アルパネイブル……聞いたことがある」
「本当に?」
「確か、水辺に生える稀少な薬草で……蛇の毒を打ち消す効果があったのではないかな? 発見者は確か……何とかジャンセン? ルイス=ジャンセンだったかな」
「すごい!」
「すごいわ」
「よし、すぐ回答しましょ。わたしたちが一番乗り間違いなしだわ」
「まて、ジョイス=ジャンセンかもしれない」
「でもこうなったら、一か八か……」
「だめだ。自信がない。確かめた方がいい」
「確かめるってどうやって?」
「図書室だ」
「そうか、図書室!」
周りを見ると、同じことを考えたらしい何人かが、校舎へ向かってすでに走り出していた。
「ああ、出遅れた」
「急がないと! 先をこされちゃう」
「多少なら大丈夫。私はどの本に載っていたか、正確に覚えている」
リーゼロッテの言葉は頼もしい。やっぱり仲間になってくれてよかった。
「よし、急ごう」
わたしたちが走り始めようとしたそのとき、目の前に、三人の男が立ちふさがった。
「おっと、ちょいまち」
その中の一人、にやにや笑いながらこちらを見ているのは、ケインだった。
「何なの?」
「いや、特に用はないんだけどさ」
「どいてよ、急いでるんだから」
「そう言うわけにはいかないんだよな」
「何なんだ、こいつらは?」
「知らない。ことあるごとにわたしに突っかかってくるのよ」
リーゼロッテに説明する。
「放っておきましょう」
セレーナが言う。
わたしたちが三人の横をすり抜けようと、右へ進路を変えると……。
「まあ待てよ」
三人は両手を広げて回りこみ、行く手をふさいでくる。
「ちょっと、何なのよ!」
「何でもないって言ってるだろう……へへ」
ケインのにやにやは最高潮に達している。
「こんなことをしていたら、あなたたちだって、試練を突破できないわよ」
セレーナが諭すが、しかし、
「そうかもな」
ケインはけろりと言う。
「こいつら、自分たちは試練に挑戦する気すらないらしいな」
リーゼロッテが言う。
「そんなの、ただの嫌がらせじゃない!」
わたしが叫ぶと、
「だったら何だ?」
ケインは言った。
わたしが憤慨していると、リーゼロッテが言う。
「自分に能力がないから、他人の足を引っ張るのか。気持ち悪いやつらだ」
それを聞いたケインの顔が真っ赤になる。
「リ、リーゼロッテ、直球すぎ」
リーゼロッテは歯に衣着せない。だがわたしの気も多少は晴れる。
しかし、依然としてケインたちは道を譲る気はないらしい。
どうしよう……。わたしとセレーナだけだったら、こんなやつら、いくらでも巻けるんだけど。
でも、リーゼロッテはそれほど走るのが速くない。
かといって、暴力に訴えるわけにもいかないし……。
(ちょっと小突くくらい、いいのではニャいか?)
と、にゃあ介の声が聞こえるが、やはり、衆目の元で喧嘩するのは避けたい。そんなことで失格になったらいやだし……。
じりじりと時間が過ぎていく。
「さすがにまずいな……」
リーゼロッテが唇を噛みながらつぶやく。
「ええい、こうなったらもう仕方ない」
わたしは言う。
「悪く思わないでよね。そっちが悪いんだから」
両手をあげ、わたしは呪文を唱え始めた。
「パラライズウインド!」
一陣の風がわたしの元を吹き抜けていく。
足下の草を揺らし、土煙を舞い上げる。
その風はケインたちのところへ真っ直ぐ達し……
「うっ!?」
一瞬、呻いたあと、ケインたちは、バタバタとその場に倒れた。
応援席から声が上がる。
「何だ、どうした!?」
「急に倒れたぞ」
そして、
「おい、君たち! 何をやっている?」
と、ショウグリフ先生の声が聞こえてくる。
そして、先生たちが全員、慌てて駆けつけてくる。
「君は一体……」
「今のは何かね?」
口々に質問を浴びせてくる。
やばい、これじゃ間に合わない。
「後で説明します」
「すぐに動けるようになりますから!」
わたしたちはそれだけ言って、校舎へ向かって走った。
背後に麻痺したケインたちと、不思議そうな生徒、それから興味津々の先生たちを残して。




