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第五百七話 砦へ

 ユンヒェムが、横たわるユビル王の元へ跪く。


「……兄上、よく無事で」


 王の手を取り呟く。

 王の意識は戻らない。だが、たしかに生きている。


 やがて立ち上がると、


「残ったのはこれだけか?」


 ユンヒェムは、傷ついた兵たちを見回す。


「…………」


 王を護っていた兵たちは、無言で頷く。 


「そうか」


 そう言うとユンヒェムは、王の隊の生き残りに声をかける。


「皆、ご苦労だった。よく王を護ってくれた」


 ユンヒェムは馬に跨がり、


「負傷した者、馬を失った者は、我が隊の馬に同乗せよ」


 ラウルにも訊ねる。


「どうだ? いけるか?」

「馬で走るだけならば、問題はない」


「ならば、王を任せられるか?」

「――必ず砦までお連れ申す」


 そしてユンヒェムは言う。


「砦まで駆けるぞ。遅れるな」




   ◆




 森の中を騎馬隊が駆け抜けていく。

 黒い木々が馬列を乱し、湿った地面と腐葉土がその足をすくおうとする。

 だが、騎馬たちは怯まず、木々の間を縫うように森の中を疾走する。


 鎧の擦れる音、馬の蹄の音が森に響く中、ある者は前を見据え、ある者は後方を警戒している。

 腕に包帯を巻いた兵士や、肩を負傷し血が滲む者、馬の背に負傷兵を乗せ、慎重に手綱を握る兵士の姿も目立つ。


 顔には疲労と決意が混じり、森の静寂を切り裂くように進む彼らの姿は、戦場の厳しさと仲間を守る覚悟を物語っていた。



 やがて、木々がまばらになり視界が開けてくる。

 黒き魔の森の出口は近い。


 先頭を行くユンヒェムが、振り返って確める。

 騎馬は一丸となって駆け続けている。


「森を出るぞ!」


 ユンヒェムがそう言ったとき、開けた光景が広がるはずの前方に、不穏な気配が満ちた。




   ◆




「うわッ!?」


 慌てて馬を止める兵士たち。


 茂みの中から一斉に、黒い影が立ち上がる。

 矢が放たれ、鋭い音と共に木々に突き刺さる。


「危ないっ!」


 馬が嘶き、兵士たちは慌てて盾を構える。

 森の静寂は、戦の喧騒に一瞬で塗り替えられる。

 前方には、突然立ち塞がった敵の軍勢。


「待ち伏せだ!」


 敵は森の出口を取り巻くように、包囲網を敷いている。

 負傷兵を支えていた兵士が叫び声を上げ、他の者たちは必死に陣形を整えようとするが、敵の数の多さに圧倒される。


「まって!」


 わたしは言う。

 よく見ると、相手は今までのゴブリンやオークだけではなかった。


「あれって……」


 オークやゴブリンより人間に近く、それでいて人ならざるもの。

 黒い、馬に似た動物に跨った、赤く光る目の者たち。

 誰かが叫んだ。


「魔族だ! 魔族が現れやがった!」


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