第五百六話 ラウル=ヴァルトシュタイン
ユンヒェムを先頭に兵士たちは森の奥へと駆けていく。
わたしたちも後へ続く。地面は湿っていて、馬が足を踏み入れるたびに泥が跳ねる。
魔物たちが、行く手を阻もうと襲い掛かってくるが……
「邪魔はさせない!」
ユンヒェムの剣が閃き、魔物の首が一瞬で胴から離れる。
「続け! 前へ!」
ユンヒェムや兵士たちが剣を振るい、魔物を斬り捨てていく。
顔を打つ枝葉に目を細めながら、森の中を駆ける。
鎧の擦れる音が小さな金属音となって森の闇に響く。
「……あれは!」
ユンヒェムが小さく叫ぶ。
木々の向こうに、銀色の甲冑に身を包んだ騎士たちの姿が見える。
大きな木を背に、陣形を固め、盾を突き、敵と交戦している。
鎧には無数の傷が刻まれ、血を流している者もいる。
皆、満身創痍の様子で、それでもかろうじて踏ん張っている。
その兵たちの先頭に立って魔物と対峙しているのが、ラウルだ。
ラウルは剣を振るい、襲い来る魔物を斬り倒す。一匹。また一匹。
だがそのラウルも、表情に苦悶の色が見える。
額には汗が滲み、目の下には深い隈ができている。
「ぐっ……」
魔物の一匹が、ラウルへ向かって剣を振り上げる。
ラウルは剣を持ち上げて防ごうとするが、その動きは鈍い。
「はあぁぁっ!」
その瞬間、ユンヒェムが疾風のごとく駆け込んでいく。
剣を横一文字に振り、魔物の胴を横っ面から切り裂く。
魔物が真っ二つになってその場へ崩れ落ちる。
「……ユンヒェム様!!」
兵たちが叫ぶ。
後に続いたユンヒェム隊の兵たちが、周りにいる魔物たちを次々と斬り伏せる。
「ふ……」
ラウルが微かに笑う。
「……待った甲斐があったな」
そうつぶやいて、ラウルは膝をつく。
ラウルの顔は青白い。だがその目にはまだ光が宿っている。
わたしたちはすぐラウルの元へ駆け付ける。
ユンヒェムがラウルを助け起こす。
ラウルの鎧は傷だらけで、あちこちが破れている。
「ラウル」
ユンヒェムの声に、ラウルは言う。
「……王はそこに」
ラウルは木の元を指し示す。
兵たちが木の陰へとまわる。
そこには、横たわるように目を閉じたユビル王の姿があった。
「……意識はないが、息はある」
ラウルの言葉に、ユンヒェムは深く頷く。
そしてラウルの肩に手を置き、静かに言った。
「ラウル。よく王を守り通してくれた」
ラウルは安堵したように微笑った。