表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
506/598

第五百五話 森の中

「ぐっ、なんて数だ」


 わたしたちは、必死で戦いながら、魔物たちの軍勢の中を進む。


 胸中には、ある不安。

 この魔物の群れの中、果たして王は生き延びているのだろうか……。


 剣戟の音が響く。

 盾で仲間を守り、剣で敵をなぎ倒す。兵士たちは一歩も退かない。

 しかし、多勢に無勢。このままここで戦うのは、危険だ。


「森へ!」


 森の中ならば、少しは戦況が有利になるはず。

 皆一丸となって、森へ向かう。

 塊のように身を寄せ合い、森へ馬を走らせる。


 ――黒い森は、ただ不気味に静かに、わたしたちを待ち構えている。




   ◆




 魔の森。

 高さが何メートルもある木々が鬱蒼と生い茂り、空を覆い尽くしている。


 黒くねじくれた枝が不気味に伸びる様は、異様な光景だった。

 その幹のひび割れた樹皮も、黒く焦げたような色をしている。

 風が吹くたびに木々は耳障りな軋みをあげ、足元には黒い腐葉土が広がる。


 なんだかこの森では、光さえも鈍く吸い込まれているように感じる。

 

「この森にユビル王がいるの?」


 わたしはリーゼロッテに訊ねる。


「わからない」


 とリーゼロッテは答える。


「可能性はある、と思う」


 そうこうしている間にも、わたしたちを追って魔物たちが迫ってくる。


「邪魔だ!」


 ユンヒェムが剣を振るい、魔物を斬り捨てる。

 他の兵士たちも、魔物を倒しながら、森の中へと進む。


 木々が目穏しとなって、森の外ほど攻撃は苛烈ではない。

 王の隊も、この利を生かして森へ入ったはず……。

 そう思いたいが、本当にこの森の中にいるかは分からない。

 それに、もしこの森にいるとしても、一体どの方向へ行ったのか、皆目見当もつかない。


「どうしよう? どっちへ向かえば……」


(ミオン、その目と耳は何のためにあるニャ?)


 にゃあ介の言葉に、


「目と、耳……」


 わたしはじっと目を凝らす。


 すこし先の地面の黒い腐葉土の上に、ぴかり、と光るものを見つけた。

 急いで駆けつけ、馬を降りる。


「これは……」


 わたしは敵が襲ってこないか確認しながら、屈みこむ。

 そして地面の上に落ちていた、光る物を拾い上げる。


 それは王家の紋章が刻み込まれた、一枚の銀貨だった。


「いる! やっぱりユビル王たちはここに逃げ込んだんだ!」


 わざと落としたのかどうかはわからない。

 が、銀貨の存在は、王たちは森にいる、ということを指し示している。


 目を瞑り、銀貨の落ちていた位置に屈み、ピンと耳を立てる。

 人間の耳ではなくて、頭の上についているネコ耳のほうだ。


 黒い木々たちの葉の擦れる音。

 わたしたちを追ってくる魔物たちの足音。


 ……。

 …………。


 ……キーン……。


「――聞こえる!」


「何か聞こえたのか!?」

「北の方向、300メートルくらい……誰かが応戦している音が聞こえる!」


 ユンヒェムはわたしの言葉を聞くや否や、拍車を蹴りつける。


「急げ! 王の元へ……王は生きておられる!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ