第五百五話 森の中
「ぐっ、なんて数だ」
わたしたちは、必死で戦いながら、魔物たちの軍勢の中を進む。
胸中には、ある不安。
この魔物の群れの中、果たして王は生き延びているのだろうか……。
剣戟の音が響く。
盾で仲間を守り、剣で敵をなぎ倒す。兵士たちは一歩も退かない。
しかし、多勢に無勢。このままここで戦うのは、危険だ。
「森へ!」
森の中ならば、少しは戦況が有利になるはず。
皆一丸となって、森へ向かう。
塊のように身を寄せ合い、森へ馬を走らせる。
――黒い森は、ただ不気味に静かに、わたしたちを待ち構えている。
◆
魔の森。
高さが何メートルもある木々が鬱蒼と生い茂り、空を覆い尽くしている。
黒くねじくれた枝が不気味に伸びる様は、異様な光景だった。
その幹のひび割れた樹皮も、黒く焦げたような色をしている。
風が吹くたびに木々は耳障りな軋みをあげ、足元には黒い腐葉土が広がる。
なんだかこの森では、光さえも鈍く吸い込まれているように感じる。
「この森にユビル王がいるの?」
わたしはリーゼロッテに訊ねる。
「わからない」
とリーゼロッテは答える。
「可能性はある、と思う」
そうこうしている間にも、わたしたちを追って魔物たちが迫ってくる。
「邪魔だ!」
ユンヒェムが剣を振るい、魔物を斬り捨てる。
他の兵士たちも、魔物を倒しながら、森の中へと進む。
木々が目穏しとなって、森の外ほど攻撃は苛烈ではない。
王の隊も、この利を生かして森へ入ったはず……。
そう思いたいが、本当にこの森の中にいるかは分からない。
それに、もしこの森にいるとしても、一体どの方向へ行ったのか、皆目見当もつかない。
「どうしよう? どっちへ向かえば……」
(ミオン、その目と耳は何のためにあるニャ?)
にゃあ介の言葉に、
「目と、耳……」
わたしはじっと目を凝らす。
すこし先の地面の黒い腐葉土の上に、ぴかり、と光るものを見つけた。
急いで駆けつけ、馬を降りる。
「これは……」
わたしは敵が襲ってこないか確認しながら、屈みこむ。
そして地面の上に落ちていた、光る物を拾い上げる。
それは王家の紋章が刻み込まれた、一枚の銀貨だった。
「いる! やっぱりユビル王たちはここに逃げ込んだんだ!」
わざと落としたのかどうかはわからない。
が、銀貨の存在は、王たちは森にいる、ということを指し示している。
目を瞑り、銀貨の落ちていた位置に屈み、ピンと耳を立てる。
人間の耳ではなくて、頭の上についているネコ耳のほうだ。
黒い木々たちの葉の擦れる音。
わたしたちを追ってくる魔物たちの足音。
……。
…………。
……キーン……。
「――聞こえる!」
「何か聞こえたのか!?」
「北の方向、300メートルくらい……誰かが応戦している音が聞こえる!」
ユンヒェムはわたしの言葉を聞くや否や、拍車を蹴りつける。
「急げ! 王の元へ……王は生きておられる!」




