第五百二話 救出準備
軍議の間を退出して外へ出る。
わたしたちの横を、ユンヒェム隊の兵たちが急いで駆けていく。
広野に午後の風が吹いている。
まだ先ほどの爆発の影響はあるが、敵軍は体勢を整え、進軍しつつある。
その様子を、金色の鎧を着た人物が、腕を組んで眺めている。
ユンヒェムだった。
表情は見えないが、その背中に決意が漲っている。
「ユンヒェム」
セレーナが声をかける。
「私も行くわ」
「だめだ」
ユンヒェムは即答する。
「君はここに残るんだ。この任務はあまりに危険すぎる」
するとセレーナは、
「…………」
黙ってユンヒェムを見つめる。
ユンヒェムが続ける。
「これは僕の仕事だ。君には君の、やらなくてはならないことがある」
それだけ言うと振り返り、やさしく微笑んだ。
「ね、僕のセレーナ」
◆
ユンヒェムが出発の準備のために立ち去ってから、わたしはセレーナに訊ねた。
「意外とあっさり引き下がったんだね、セレーナ。もっと食い下がるかと思ったのに」
セレーナは肩をすくめる。
「言っても聞かなそうだったから。……ああ見えて、けっこう頑固なところもあるのよね」
リーゼロッテが訊く。
「いいのか? 行かせてしまって」
「ユンヒェムが言っていたでしょう? これは彼の任務。行かないわけにはいかないのよ」
「でも……心配じゃないの?」
わたしが言うと、
「そうね」
セレーナはつぶやいて、
「それはそうと二人とも、ちょっと話があるんだけれど」
と声を落とす。
「?」
「なんだ?」
するとセレーナはいたずらっぽい笑みを浮かべて言った。
「私には私の、やらなくてはならないことがあるわ」
◆
砦の城門の前。
ユンヒェムの騎兵隊たちが集まっている。
「時間が無い。簡潔に説明する」
軍馬に跨ったユンヒェムが、兵たちに言う。
「開門と同時に飛び出す。弓兵の援護射撃と共に駆け抜ける」
ユンヒェムは頭に手をやって、兜の具合を確かめる。
「我々の目的は王の救出、それだけだ」
「はっ」
「行く手を塞ぐ敵以外は無視せよ。作戦は以上だ」
そしてこう付け加える。
「難しい任務だ。辞退したい者がいれば、抜けても構わない」
ユンヒェムが一同を見回す。
誰も言葉を発する者はいない。
「……すまないな、みんな。僕のわがままに付き合わせてしまって」
「ユンヒェム様の命ならば、どこまでも共に」
胸に拳を当て、答えるユンヒェム隊の騎兵たち。
ユンヒェムは笑みを見せ、彼らを見つめる。
やがて、城門のほうへ向き直ると、言った。
「ゆくぞ! 敵陣に乗り込み、王を救出するんだ」