表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/605

第四十九話 大会迫る

「この間は、本当に怖かったわ」

「悪魔召還のこと?」


 その日の授業後、わたしはセレーナと、校舎の外で話していた。

 木々の向こうに見える湖を眺めながら、わたしは言った。


「うん。目をよこせ、て言われたときは、どうなるかと思った」

「私も。……でも本当に何もなくてよかったわね」


 一旦会話がとぎれる。

 かすかな風が湖の方から吹き寄せ、頬を撫でていく。


「ねえ、ミオン。にゃあ介さんと話していい?」


 突然、セレーナが言った。


「えっ?」

「あの、ダメならいいんだけど」

「……ううん、かまわないよ。かまわないと思う。ねえにゃあ介?」


(ワガハイに答えられることニャら答えよう)


「何だって?」

「きいてくれるって。暇してたみたいだし」

(暇とは失敬ニャ。ワガハイは黙っているように見えても、常に思索に耽っていて……)


「何か訊きたいことあるの? セレーナ」

「ええ。にゃあ介さんは博学のようだけど……」

「え、何でそう思ったの?」

「この間の話し方で。すごく知性を感じたわ」

「……確かにわたしより頭いいかもしんない」


(セレーナはわかっているニャ)


「調子に乗らない」

「何て?」

「なんか喜んでる」

「うふふ」

「で、何が訊きたいんだっけ?」

「にゃあ介さんは、剣術については詳しいのかしら」

「どうなのかしら……」


 わたしは、以前、洞窟でにゃあ介に戦い方を教わったときのことを思い出した。

 戦闘一般については詳しそうだが、剣術はどうなんだろう。


(ふむ。まあ一通りは)


「ええ!?」


 にゃあ介にはホント、驚かされる。一体、どこで、そんな知識を仕入れたんだ。


(書物やテレビからな。断片的な情報を集めれば、大体のことはわかる)


「わかるってさ」

「ホント? やっぱりすごいわ」

「うん、まあ……」

「あの、私の剣術を見ていただけたかしら。何年も剣を振ってきたおかげで、少しは扱えるようになったのですが、このままでいいのか、悩んでいまして……」


 わたしは、セレーナの向上心にも驚かされた。


「すごいなあセレーナ。あんなに剣が強いのに、まだ上を目指しているんだ」

「父の仇を討つためよ」


 そうだ。セレーナはお父さんを殺されている。

 魔法学校へ入ったのも、それが理由だった。


「にゃあ介さん、もっと強くなるためには、どうしたらいいかしら」


「どうなのにゃあ介?」


 わたしはにゃあ介に問いかける。


(ふむ)


 にゃあ介は、しばらく思案しているように黙り込み、こう言った。


(セレーナの剣は、鋭く、速い。独創性に富んだ太刀筋がよい)


「鋭くて、速くて、太刀筋が独創的でいいって」


 うれしそうなセレーナ。


(しかし、問題もそこにある)


「え?」

「何?」

「問題があるって。……どういうことよ、にゃあ介」


(おそらくは、独学で剣を学んだのだろう。それが独創性を生んでいるのだが、上を目指すのならば、基礎は避けて通れニャい)


「何、何? 早く教えて」


 セレーナは待ちきれない様子だ。


(人間は余計なことを考える。故に無駄が多い。基礎はその無駄をなくすために築きあげられたものだ)


 わたしは、にゃあ介の言葉をそのままセレーナに伝えた。


「基礎か……」

「まあ、ネコの言うことだから、真に受けなくてもいいのよ」

「ううん。私、基礎を学んでみる。ありがとうございます。にゃあ介さん!」


(礼には及ばニャい)


「礼はいらないって……あ、来た」


 校舎へ目をやると、丁度リーゼロッテが姿を現した。

 こちらへ歩いてきて、言う。


「何を話していたんだ?」

「ううん、何でもないの」


 ごまかすわたし。


「で、今日はどうする? まさか、また悪魔を召還するんじゃないよね」

「いや、今はまだ他に解析の済んだ魔法陣が無くてな。それよりちょっと羊皮紙の手持ちが少なくなってきたので、買いに行きたいんだ」


「そうだ、私もペンと羊皮紙、買わなくちゃ」


 セレーナが言う。


「あ、それなら三人で行こう。ついでに、何か他の物も見て回ろうよ」

「いや、私は羊皮紙だけでいいんだが……」


「いいから、いいから!」


 わたしはそう言うと、リーゼロッテの背中を押して歩き出したのだった。




   ◆




 羊皮紙を買った後、わたしたちは、ウインドーショッピングをして歩いた。

 異世界のさまざまな商品は、見て回るだけでも楽しい。

 友達と三人でなら、なおさら楽しい道理だった。


「あっ、あれ!」


 わたしが見つけたのは、洋服屋さんの店頭に置かれた、ちいさな髪飾りだった。

 わたしは走っていって、手に取ってみる。


「かわいー!」

(ワガハイの手ではニャいか)


 そう、ネコの肉球を型どった髪飾りだ。

 金属でできているらしく、光を反射して銀色にきらきらと輝く。


「ねえ、これ買う?」

「買ったらいいではないか」

「ちがうの、三人で買おうよ」

「え?」


 顔を見合わせるセレーナとリーゼロッテ。


「でも……」


 何だか気後れしている二人。


「大会はチーム戦なんだからさ。大会中は三人でこれをつけて、わたしたちのトレードマークにしようよ!」

「トレードマーク?」

「ねえ、買おー買おー」


 と、わたしは強引に説得して、髪飾りを買ったのだった。




 三人で同じ髪飾りをつけながら、歩く。

 よっぽど仲良く見えてるよね。わたしは心がうきうきする。

 セレーナとリーゼロッテはちょっと恥ずかしそうだ。


「たのしいねー」

「うふふ、そうね」

「まあ、つまらなくはないか……」


 そんな風に三人で商店街を歩いていると、セレーナが言った。


「あ、ちょっとここ寄ってもいいかしら」


 それは見覚えのあるお店だった。瓶詰めにされた果物や、油、肉の薫製などが並ぶ中、セレーナが真っ直ぐ向かったのは――


「これこれ。乾燥ブラックハネン」

「え、セレーナ、買うの?」

「ミオンの見てたら、私も食べてみたくなっちゃった」


 セレーナが言う。


「うまいのか?」


 リーゼロッテが訊く。


「削って、麦粥にかけて食べるの。おいしそうだったわ」

「ふーん。私も買ってみるか」


 リーゼロッテもそう言って商品を手に取る。

 このままいくと、あの食べ方、この世界に広がっていって定着するんじゃないかしら。


 異世界にネコまんまを普及させた女性、胡桃沢美音。

 ……あんま、カッコよくないわね。


「そっかー、じゃ、わたしも買おう」


 わたしが言うと、どこかでニャハーッっという声がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ