第四百九十七話 開戦
「オオオォォーー!」
ジルが叫び、馬上で槍を振って、戦闘開始の合図を送る。
冒険者隊が、ジルに呼応して一斉に鬨の声を上げる。
冒険者たちが、魔物の群れに突撃する。
「トォオオリャアーー!!」
開戦一番、リーズが大剣を振り回し、オークの群れを一撃で蹴散らす。
一瞬で薙ぎ払われたオークは、自分に何が起きたのかわからないまま絶命する。
リーズの周りに、吹っ飛ばされた魔物たちが落ちてくる。
「ウリャァアー!」
ガンフレットが斧を振る。ゴブリンたちの頭が吹っ飛ぶ。
血しぶきが上がり、頭のないゴブリンたちが二、三歩進んでから地面に崩れ落ちる。
「でやああーー!」
ジルも負けじと槍を繰り出す。
強い力で振り回された槍は、まとめて魔物たちの全身の骨を砕く。
「なんつう威力だ! さすがグランパレスの隼だ!」
冒険者たちが驚嘆の声を上げる。
「手柄、全部持ってかれちまうぞ」
「俺たちも続け! うぉおおーー!!」
冒険者たちと魔物たちがぶつかり合う。
もう、後戻りできない。戦は始まってしまったのだ。
わたしはルミナス・ブレードを振りかぶる。
ゴブリンがわたしに飛びかかってくるのを、横薙ぎに斬り倒す。
「ハァッ! ヤァッ!!」
セレーナも馬の上から、魔物たちを斬り伏せる。
リーゼロッテは、確実に一体ずつ、魔物を仕留めていく。
「おい、なんかすごい三人組がいるな」
「あんな娘っ子が……」
「負けてられん! いくぞ!」
飛び交う矢や投石を避けながら、冒険者たちは魔物の群れの中を突っ切っていく。
「とりゃーっ!」
剣を構えた冒険者が、オークの喉に真っすぐ突き刺して倒す。
「オラァアッ!!」
かと思うと、大型のハンマーを持った冒険者は、魔物を何体かまとめてふっとばす。
「みんな、やるね!」
この勢いに乗じんと、荒くれ者の冒険者たちが、我も我もと進撃する。
鎖鉄球を手にした大柄な冒険者が、ゴブリンの群れを蹴散らしてゆく。
「おらおらおら!」
(あの男、ちょっと調子に乗り過ぎだな)
にゃあ介が言う。
冒険者の鎖鉄球がゴブリンの頭を直撃し、頭蓋骨ごと陥没させる。
だが、相手を倒したのも束の間、
「く、くそ!」
鎖が、敵のゴブリンの身体に巻き付いてしまっている。
慌てる冒険者に矢が飛んでゆく。
ドシュッ!
「ぐおっ!」
肩に矢を受けた冒険者は、驚いて肩を押さえる。
みるみるうちに、肩が血に染まる。
座り込む冒険者に、新手のゴブリンが迫る。
ゴブリンが短剣を振りかぶって飛び掛かる――
「……ギィエェェッ!」
叫び声と共にゴブリンの首が飛ぶ。
一人の男が馬上から、負傷した冒険者へ手を差し伸べる。
「大丈夫かい?」
ユンヒェム王子だった。馬で駆けつけ、ゴブリンの首をはねたのだ。
冒険者は片膝をついて、
「あ、ああ……。あんたは……」
ユンヒェム王子が、負傷した冒険者に言う。
「キミは後ろへ下がれ。後は僕たちにまかせるんだ」
「だ、だが……うっ」
冒険者は痛そうに顔をしかめる。そこへ、
「ユンヒェム様!」
ユンヒェムのもとに、ユンヒェム隊の兵が駆けつける。
「この者に馬を!」
「はっ。おい、乗るんだ」
「すまねえ」
怪我した男は素直に言う通りにする。
「……王子様が俺みてえなもんを気遣ってくれるなんてな」
「はっはっ。気にしないでいいよ。僕もキミも、同じグランパレスの戦士だ」
冒険者の背中を見送りながらユンヒェム王子が言う。
「さあみんな、いくよ!」
「はっ!」
「ユンヒェム様に続け!」
ユンヒェム王子の指揮の下、兵たちは再び魔物の群れへ突っ込んでゆく。
ユンヒェムが兵たちに慕われているという理由が、少しだけ分かった気がした。
「こちらの優勢は間違いないな」
「でも、ちょっと数が多すぎるわ」
リーゼロッテとセレーナが馬を寄せてくる。
わたしは戦況を確かめる。
たしかに、冒険者隊はくさびのように魔物軍へ攻め込み、敵を分断した。
だけど、魔物の数が多すぎて、そのくさびは暗緑の闇に取り込まれようとしている。
「ようし……」
手綱を引きながら、わたしは魔力を練る。
「我求めん、汝の業天に麗ること能わん――」
両手の間に、魔力を集めていく。
そして冒険者たちを巻き込まないように、魔物たちの方へ狙いを定め……
「ダークフレイム!!」
魔力を解き放つ。
轟音とともに、炎の弾が飛ぶ。
まるで、強力な光線が闇を突き抜けるかのように、炎が魔物を焼き尽し、群れを切り裂いていく。
炎の通った後には、何も残らない。炎は一直線に、魔物を一掃する。
川向こうまで炎弾は飛び、彼方へ消えていく。
「うぉおおおお!」
冒険者たちが歓声を上げる。
「なんだあれは!?」
「魔法? 冗談じゃねえ、あんな凄え魔法は見たことがないぞ!」
冒険者たちの視線が集まる。
「あの子がやったんだ」
「何者だ?」
わたしがもじもじしていると、セレーナがわたしの手を握って持ち上げる。
「ちょ、ちょっとセレーナ……」
セレーナが大声で、
「ミオン!」
と叫ぶ。わたしは赤くなる。
「や、やめてってば」
セレーナは続けて、叫ぶ。
「セレーナ=ヴィクトリアス! リーゼロッテ=アンダーセン!」
よく通る大きな声は、混沌とした戦場にすら響き渡るほどだった。
「我らクレセント・ロペラ! この剣この命、王国のために!」




