第四百九十三話 護衛計画4
以降、軍議はすんなりと進んでいった。
「以上でいかがでしょうか」
グレンフェルト公爵が、円卓の貴族たちを見回す。
「異議なし」
「では、これで決まりですね……」
ユンヒェムが言うと、貴族たちは一同首肯する。
「皆さん、よろしくお願いします。今日はありがとう」
ユンヒェムが締めくくる。
「では……、これで解散としましょう」
◆
軍議室を出たわたしたちは、城外へと歩いていく。
「いったん、私も自宅へもどるわ」
リーズが言う。
「任務の準備がいるから」
門のところで、グランパレスの隼のみんなと別れた。
わたしたちは、セレーナの別邸へ戻るため、馬車へと乗り込む。
「はー、なんだか疲れた」
わたしはこう訊ねる。
「リーゼロッテ、どう思った?」
「……どの貴族も、自分の安全と手柄のことばかり考えている気がしたな。本当に王の身を案じているのは、一部なんじゃないか」
「そのとおりね」
セレーナが言う。
「冒険者たちに一番危険な役割を任せ、自分たちは安全圏で指揮を執ろうという魂胆が見え見えよ」
それからセレーナは、眉根を寄せ、思案げな表情を見せる。
「ミオン、リーゼロッテ、やっぱりあなたたちは来ない方が……」
「何度も言わせないで。わたしたちはいつだってセレーナと一緒だよ」
「ああ、尚更セレーナ一人で行かせるわけにはいかなくなった」
セレーナは申し訳なさそうに微笑む。
「ありがとう二人とも……」
それから彼女は、
「貴族の世界ではこんなことは日常茶飯事なの」
心底うんざりした様子で、言った。
と、馬車の扉をたたく音。
「セレーナ、セレーナ!」
セレーナが扉を開けると、ユンヒェムが立っている。
「ユンヒェム。どうしたの?」
「すまない、セレーナ。……公爵たちに、いいようにやられてしまった」
ユンヒェムは本当にすまなそうに、顔をしかめている。
「気にしないで。私たちは大丈夫よ……あら」
ユンヒェムの後ろから、もう一人顔を出す。
「あ、セタ王子!」
わたしは声を上げる。
「ひさしぶり!」
「どうもすみません。なかなか顔も出せなくて……」
「ううん、セタ王子は色々忙しいんだもんね」
セタ王子は首を横に振り、
「やはりぼくも軍議には出るべきでした。冒険者たちを、そんなに軽く扱うなんて」
くやしそうに言う。
ここにくるまでに、ユンヒェムから先ほど決まった護衛の計画を聞いたのだろう。
ユンヒェムが口を開く。
「セレーナ、やはり今からでも……」
「いいえ。もう決まったことよ」
セレーナはきっぱりと言う。
「それに、私には心強い仲間がいる。心配ないわ」
セレーナはわたしとリーゼロッテを見る。
「そうか……」
「それに、私たちを援護するために、あなたも後続に名乗りを上げてくれたのでしょう?」
ユンヒェムは、少し口元を緩める。
そしてセレーナからわたしたちへ視線を移す。
「セレーナを頼むよ」
セタ王子も心配そうに、
「くれぐれも、お気をつけて」
二人はそう言うと、馬車から離れていった。
◆
(ミオン)
夜、ベッドで眠りに着こうとするわたしに、にゃあ介が言った。
「にゃあ介……ねむいよ」
(いや、一言だけ)
「なあに?」
(今回の護衛任務だが……)
にゃあ介はそこでいったん言葉を切り、一呼吸おいて言う。
(吾輩は、あまり気が進まないニャ)
「ええ? いまさら何?」
わたしは口をとがらせ、
「取りやめになんて、とてもできないよ?」
(分かってるニャ。ただ、それなりの覚悟はしておくニャよ)
「う、うん」
(……それだけだ。もう寝ろ)
わたしが目を閉じると、にゃあ介はもう一言だけ、付け加えた。
(戦争というのを甘く見てはいけニャい)




