第四百九十一話 護衛計画2
軍議室の中はだだっ広く、天井が高い。
奥行きがあり、五十人ほどが同時に入れるほどの広さがある。
中央に大きな円卓と椅子があり、何人かの貴族が座っていて、円卓に座り切れない貴族は円卓の周りに立っている。
ひときわ威厳のある顔で円卓に向かう椅子に座っているのは、ユビル王だ。
そのとなりにユンヒェムの姿もある。
扉が開くと、中にいた貴族たちが一斉にわたしたちの方を見る。
「うひゃー、注目の的だ……」
わたしはうつむいて、もじもじする。
座っていたユンヒェムが立ち上がる。
「皆さんお集まりいただきありがとう。もうご存知かと思いますが、今回の護衛任務、冒険者の隊にグランパレスの隼が加わることになりました」
ユンヒェムが言うと、貴族たちがざわつく。
「ごきげんよう、皆さん」
リーズが挨拶をすると、貴族たちは急に静かになって一斉にリーズの方を向く。
「今回は私たちも王の護衛として同行します。どうぞよろしくお願いいたします」
リーズが頭を下げる。
「ほほっ、これはこれは、グランパレスの隼のリーズ殿に同行していただけるとなると、頼もしいですな!」
季節外れの派手な服装をした貴族が、ぱちぱちと手を叩く。
「手放しでは喜べませんな」
一人の男が言う。
軍議室が静まり返る。
「我々の率いる精鋭部隊に加えて、本当に彼らが必要でしょうか」
白髪をオールバックに固めたその男は、低い声で言う。
しーんとする軍議室。
「えっと……もしかしてあんまり歓迎されてないのかな?」
わたしは小声でつぶやく。
(そのようだニャ)
にゃあ介が言う。
(貴族たちにもプライドがあるからニャ。冒険者などに、しゃしゃり出られては面白くニャいのだろう)
「むー」
やがて、他の貴族たちからも不満の声が上がりはじめる。
「グレンフェルト公爵の言う通りだ。訓練もまともに受けていない有象無象に、任務が全うできるか疑問ですな」
「そもそも、この遠征計画に冒険者の隊など必要無いのだ」
先ほどの甲高い声の貴族も、
「ほほー、たしかにそれも一理ある」
なんて意見を変える。
わたしは腹が立って、
「なによう! みんなで冒険者をばかにしちゃって」
思わずそうつぶやく。
貴族たちの目が、わたしたちの方へ注がれる。
「この者たちは?」
ユンヒェムが答える。
「彼らは、クレセント・ロペラ。優秀な冒険者たちです。今回、彼らもこの任務に手を貸してくれます」
貴族たちはまたざわつきはじめる。
「クレセント・ロペラだと?」
「知らんな。だれが推薦したんだ」
そんな声が聞こえる。
貴族の誰かが言い放つ。
「このような無名の冒険者風情をこの場に呼ぶとは、まことにもって不愉快ですな」
ユンヒェムが咳ばらいをして、
「彼女、セレーナ=ヴィクトリアスは故ユリウス=ヴィクトリアスのご息女であられる」
そう言う。
「ユリウス殿の……」
軍議室内がざわつく。
「ひょっとして、噂のフィアンセの……」
「ユンヒェム殿はいったいどういうおつもりなのだ?」
そんなひそひそ話も聞こえてくる。
「ユリウス殿の息女といったとて、彼女自身は国境警備の任にあるわけでもない」
「そうだ。一介の冒険者の立場に過ぎん」
ユビル王が顎の下で手を組んで訊ねる。
「どう思う? ラウル」
ユビル王の問いに、側に立つ、長い黒髪を結んだ、眼光の鋭い鎧姿の男が答える。
「……グランパレスの隼の力は、疑いようが無い」
「ふむ」
「クレセント・ロペラの名は耳にしたことがある。噂が本当ならば、我が軍にとって大きな戦力となるでしょう」
黒髪の男の言葉に、他の貴族たちは口を結んで黙り込む。
「あの人は?」
わたしはリーズにひそひそと耳打ちで訊ねる。
「ラウル=ヴァルトシュタイン。王直属の騎士団の長よ」
「さて。よろしいですか、みなさん」
ユンヒェムが話しはじめると、貴族たちは静まる。
「早速、作戦会議に入りましょう」