第四百八十七話 ハンバーガー大繁盛
ユリナさんは、わたしたちのおみやげを、大いに喜んでくれた。
「まあ! なんていいお肉!」
ユリナさんは目を輝かせ、
「でも……ただで頂くわけにはいきませんわ」
と、躊躇する。
「これだけの量のメジャロス・バッファローのお肉を仕入れようと思ったら、一体いくらかかるでしょう……」
「とんでもない!」
わたしはぶんぶん手を振る。
「お世話になってるお礼です。これでも全然足りないくらい」
そして言う。
「ユリナさんのお料理のおかげで、わたしたち、いつも元気をもらってますから」
「まあ……。そんな……」
ユリナさんはうれしそうに微笑み、
「でしたら遠慮せずいただきましょう。でも、しばらくはお肉料理が続きますよ?」
「やったあ!」
わたしは逆に大喜びする。
「ユリナさんのお肉料理は最高だから、毎日でも食べたいくらい!」
手を叩いてはしゃぐわたしに、にゃあ介がこう言ってあきれるのだった。
(またぜい肉が増えるニャ……)
◆
翌日からの肉料理のフルコースは、筆舌に尽くしがたい美味しさだった。
ステーキはもちろん、シチューにハンバーグ、ローストバッファロー……
ユリナさんいわく、「宮廷料理を参考にして作りました」とのこと。
どれも深みのある味わいで、まさに絶品。
なんといってもお肉! メジャロス・バッファローのお肉は、オージービーフのようなワイルドな味わいでありながらも、松坂牛のように柔らかくてジューシーで、脂身が甘い。
口に入れると舌の上でとろけて、うっとりするほど幸せな気分になってくるのだ。
「ああ……至福の美味しさ!」
わたしは肉を頬張りながら恍惚とする。
「ミオン、もっとゆっくり食べたら?」
セレーナがたしなめる。
「うん、でも、とまらないんだよ」
もがもが言いながら、わたしは肉を詰め込む。
「急ぎすぎだ。せっかくの味が台無しだぞ」
リーゼロッテも言う。
「ちゃんと味わってるよ」
わたしは言いながら、さらに肉を詰め込む。
「…………」
リーズがちらり、とこちらを見る。が、何も言わない。
「な、なんか軽蔑の視線を感じたんだけど」
わたしはとにかく肉を詰め込む。
少しでも多く食べなきゃ損、とばかりお肉と格闘するわたしに、にゃあ介が一言言った。
(……猫に小判とはこのことニャ)
◆
数日が過ぎていった。
王都を散策したり、リーゼロッテについて王立図書館へ行ったり。
そして、ユリナさん特製のメジャロス・バッファローのフルコースを堪能する。そんな日々。
最近は、リーズについて、皆でマルス・ダクトスへ顔を出している。
遊んでばかりで身体がなまってはいけないので、鍛錬しているのだ。
セレーナ別邸で朝食を終えると、王都のギルドへと向かう。
ギルドの酒場で、ジルとガンフレットと合流するのだ。
あの二人はいつも朝から酒場にいるので、そこで合流してマルス・ダクトスでの鍛錬に付き合ってもらっている。
「よう、あんたたち!」
酒場へ入ると、厨房の料理人がフライパンを振りながら声をかけてくる。
焼いているのは、メジャロス・バッファローのハンバーグだ。
「あんたにもらったレシピのおかげで、大繁盛さ。今じゃ冒険者以外の人も、わざわざハンバーガーを食べにここへ来たりするんだ」
酒場を見渡すと、そこかしこでハンバーガーにかぶりついている冒険者が目に入る。
「うーむ、もう少し高く売るべきだったか」
「あはは、リーゼロッテ、がめつい」
わたしたちは、ジルとガンフレットを探しに向かう。
「あっ……ごめんなさい」
酒場内を見回しながら歩いていると、チコリが冒険者にぶつかってしまう。
「なんだあ? ガキか」
ガラの悪そうなその冒険者は、チコリを覗き込むと、
「チビのネコ族か。おい、痛ぇじゃねえか」
と絡み始める。
わたしが止めようとすると、
「おい」
間に入ったのは、あの小汚い冒険者。
チコリがハンバーガーをあげた男だ。
「この子に用があるなら、俺が相手しよう」
男はガラの悪い冒険者を睨みつける。
「けっ、面倒くせえ。用なんてねえよ」
相手は唾を吐いて行ってしまった。
チコリが男に言う。
「おじさん、ありがとう」
「……また何かあったら、俺に言ってくれ」
頭を掻きながらそう言うと、酒場の奥へと歩いていく。
ふむー、と腕を組みながら、わたしはつぶやく。
「あのおじさん、すっかりチコリのファンになっちゃったね」




