第四百八十六話 王都ギルドの酒場で2
「おっ? なんだなんだ」
「ギルドの新しいサービスか?」
わたしたちが完成した料理をギルドの冒険者たちに運ぶと、皆一様に驚いた反応を示す。
「さあ、みんな食べて食べて!」
わたしとチコリは言う。
「ミオン&チコリ特製、メジャロス・バッファローのハンバーガーだよ!」
冒険者たちは目の前に置かれたハンバーガーを、物珍しそうに眺める。
「なんだこりゃ……見たことねえ料理だな」
「パンのあいだに挟まってるのは、こりゃ肉か?」
冒険者たちはとまどいながらも手を伸ばし、わたしたちの料理を頬張り始める。
「……!」
「こりゃうまい」
「うめえ!」
わたしたちはハイタッチする。
「見ろよ、この溢れ出る肉汁……こんな柔らかくてジューシーな肉、今まで食ったことないぜ!」
「それに、このパンの香ばしい香りともちもち感……肉のうま味とのハーモニーが絶妙だ!」
「それだけじゃねえぜ! パンで挟むことで、こうやって手で持っていっぺんに食えるんだ。面倒臭がりの俺たちみたいな冒険者にとっちゃ、最高だぜ!」
わいわい言いながら、食欲旺盛な冒険者たちは肉汁したたるハンバーガーを次々と口に運ぶ。
「大好評だね!」
キッチンにいた料理人も、ハンバーガーを口にして、
「ほお……こりゃうまい!」
と褒める。
酒場の冒険者たちは、今まで食べたことのない料理に大盛り上がりだ。
「ふむ」
その様子を見ていたギルドの料理人が言う。
「なあ、この料理、ここのギルドのメニューに追加してもいいか?」
「それはもちろん……」
言いかけると、リーゼロッテがささと寄ってくる。
「それなら、料理のレシピ代として……これくらいでどうかな?」
メガネに手をやって、頭の中のそろばんをはじくリーゼロッテ。
「いくらだって?……ふむ、いいだろう」
料理人と話がついたようだ。
「さすがリーゼロッテ、ちゃっかりしてる」
わたしは思わず笑う。
◆
ハンバーガーは冒険者たちにあらかた行き渡った。
ギルドの酒場は、冒険者たちの満足げな声で賑わっている。
各テーブルから肉とパンの香ばしい匂いが漂い、カップを傾ける音が響く。
「これで明日の戦いも頑張れそうだな!」
と誰かが笑い、仲間たちも頷きながら乾杯を交わす。
料理が彼らの疲れを癒し、夜の酒場には穏やかな活気が満ちていた。
チコリがきょろきょろと酒場を見渡している。
「どうしたの?」
チコリはハンバーガーを持って酒場の奥へ走っていく。
酒場の奥のテーブルにいた、一人の男にそれを差し出す。
「あ?」
「おじさん、これ……」
チコリの様子を見て、わたしはつぶやく。
「あっ、あの人……」
それは先ほどの冒険者だった。
チコリを馬鹿にして、リーズやわたしの怒りを買った、不潔な冒険者。
「これを……、俺に……?」
男はとまどいながら受け取る。
ハンバーガーを渡したチコリは、こちらへ戻ってくる。
「あの人にもあげたの?」
「うん」
「どうして? あんな意地悪なこと言われたのに」
わたしは訊ねる。
(ふむ。因果応報、悪因悪果。あんな男に料理をやるとは、解せんニャ)
チコリは答える。
「あたしに似てるなぁ、って」
「似てる?」
「うん、着てるものもボロボロだし、痩せてるし……おいしいもの沢山食べれてないんじゃないかなぁって」
わたしはもう一度、酒場の奥へ目をやる。
冒険者のおじさんは、ハンバーガーをじっと見ている。
おそるおそる一口ハンバーガーを口に運ぶ。
そして……むさぼるように食べ始めた。
一心不乱、夢中でかぶりついている。
にゃあ介の声。
(ミオンよりもワガハイよりも誰よりも、チコリの器の方が大きかったニャ)




