第四百八十二話 グランパレス冒険者ギルドの討伐依頼
「あそこの掲示板で、討伐依頼を探してください」
受付の女性が指差す。そこには大きな掲示板があった。
わたしたちは、掲示板の前へ移動する。
依頼は壁一面に張り出されていて、難易度別にランク分けされている。
「Fランクの依頼にする? それともEランク?」
言いながらわたしは掲示板をチェックする。
FランクEランクの依頼の欄には、簡単な討伐依頼がたくさんあるけど……。
「やっぱりちょっと報酬が少ないなあ」
わたしがつぶやくと、チコリが、
「あっ! あれは?」
と、指差す。
「どれ?」
チコリが、うーんうーんと背伸びしながら指差している方向を見ると、
「見て。メジャロス・バッファロー討伐依頼だよ」
「メジャロス・バッファロー? ユリナさんが、わざわざ取り寄せたって言ってた?」
わたしはメジャロス・バッファローの肉料理を思い出す。
「あの味、あの香り、あの肉汁……じゅるり」
思わずよだれが垂れそうになる。
「ユリナさん、わたしたちのために奮発してくれたって言ってたよね。きっとお高いお肉なんだろうね」
「ということは報酬も期待できるな」
「Dランクね……チコリには、ちょっと早いんじゃない?」
「うーん……。どう思う、リーズ……ってリーズ?」
リーズが掲示板を素通りして、すたすたと歩き出す。
「え? え?」
リーズはそのまま、ギルド奥の酒場に向かって歩いていく。
そのまま酒盛りをしている二人の男の席へたどり着くと、男たちの耳を引っ張り上げる。
「こらっ!」
「イテテッ」
「なにすんだ」
男たちは振り返って、
「おう、リーズじゃないか!」
「帰ってたのか?」
と驚く。
「あっ」
わたしはようやく気付く。あの二人、知ってる。
「あれ誰?」
チコリが訊ねる。わたしは、
「ジルとガンフレットだよ。リーズと同じ、グランパレスの隼の」
そう答える。
「王都のSランクパーティ。槍使いと斧使いで、二人ともすっごく強いんだよ」
「へ~!」
チコリが両手を合わせて二人の方を見る。
リーズはジルとガンフレットに向かって、
「もう! 二人とも、私がいないからって朝からお酒飲んで!」
と怒っている。
ガンフレットが笑う。
「参ったな、こりゃ。怖い同僚が帰ってきちまった」
ジルが言う。
「どうだった、魔法学校は? 使えるのか、魔法? 魔法のお勉強してきたんだろ?」
リーズが、
「まあね」
と答えると、
「本当か。見せてくれよ」
二人とも興味を示す。
「また今度ね。今日は討伐依頼を受けに来たの」
「討伐依頼を?」
「ええ。これからメジャロス・バッファローを倒しにいくわ」
「オレたちも行くか?」
「酔っ払い男を二人も面倒みるのはごめんだわ」
リーズが手のひらをひらひらとさせる。
「はっはっ、リーズらしいや」
ジルは笑って、
「ひとつ、アドバイスしといてやろう」
と言う。
「メジャロス・バッファローの特徴は、なんといってもその突進力だ」
「ああ」
ガンフレットも同意する。
「あの速さは、人間の足じゃ、敵いっこない」
ジルは、ジョッキのビールをぐびり、と飲んで、
「ヤツを倒すには、恐怖心に打ち勝つことが大事だ」
「恐怖心に打ち勝つって?」
リーズが訊き返す。
「早いとこ避けよう、と思わないことだ」
ジルが答える。
「引きつけて、引きつけて……うんと引きつけてから、身体をかわすと同時に一撃を加える」
ジルの説明に、
「ふーん。覚えとくわ」
とリーズ。
「ま、お前なら大丈夫だろうけどな」
二人は笑う。
「……あっちにいるのが、お前のクラスメイトか?」
ジルとガンフレットがこちらを見て手を振る。
「リーズをよろしくな!」
わたしは手を振り返す。
「はーい!」
「……じゃ、行くわ」
リーズが酒場から戻ってくる。
ジルとガンフレットの二人は、笑顔でリーズを後ろから見送りながら、こう言った。
「リーズ、グランパレスの隼のことも忘れんじゃないぞ!」




