第四百八十話 食いぶち
王都へ来てから、数日。
王都は景観がとても美しいし、治安もいい。素敵なお店がたくさんあるし、美味しい物もいっぱい。
セレーナの別邸へ帰れば、ふかふかのベッドがあるし、ユリナさんの手作り料理が待っている。
はっきりいって、最高の休日だ。
今朝もわたしは最高の気分で目覚めた。しかし……。
「うーん」
枕を抱いてベッドにうつ伏せに寝ているわたし。
「うーん、うーん」
枕を抱えたまま、ごろりと一回転寝返りをうつ。
「やっぱりだめだ!」
わたしは、がばと起き上がり叫んだ。
「いったいどうしたニャ?」
にゃあ介の眠たそうな声。
「セレーナの別邸に来て以来、部屋代も食費も出してない」
わたしは頭を抱える。
「だめだ。最高だけど、こんなのだめだ。最高だけど、やっぱだめだ」
「ニャんだ、そんなことか」
「そんなことじゃないよ。このままじゃ、人間としてよくない気がする!」
「ワガハイはネコだから分からニャいが……。で、どうする気ニャ?」
◆
「と、いうわけで、ギルドへ行こう!」
セレーナ邸のサロン(客間)で、わたしはそう提案する。
「ギルドへ?」
セレーナとリーゼロッテがわたしを見る。
「休みのあいだのお泊り代を、稼ぎたいの」
「お金なんて要らないって、言ったじゃない」
とセレーナ。
「いくら友達の家だからって、こんなに長いあいだ、ただで寝泊まりさせてもらうわけにはいかない」
わたしは熱を込めて言う。
「それに、ただで泊まらせてもらってるのに、毎日食っちゃ寝、食っちゃ寝ばかりしてるだけなんて、罪悪感に耐えられない! ね? リーゼロッテ」
「私は毎日図書館に行っているが……」
「とにかく!」
首を振って、
「素敵な一人部屋にふかふかのベッド、ユリナさんの美味しい食事……」
わたしは言う。
「ただで貰っていたら、罰が当たっちゃう。……やっぱり、自分の食いぶちくらい自分で稼がないと」
「そんな気兼ねしないでも、ほんとに構わないのに」
「いーや! 払わせてもらいます。じゃないと、わたし出ていく! 野宿する!」
やれやれ、と肩をすくめて苦笑いするセレーナ。
「また出たわね、ミオンの頑固なところが。こうなったら聞かないんだから」
「セレーナさま、お茶をお持ちしました」
そこへチコリがティーセットを持って現れる。
「あっ、チコリ」
「えへへ~。じゃーん」
「わ、なにそれ?」
「ミオンがおみやげに持ってきたドミンゴの実を使って、ユリナさんと一緒にタルトを作ってみたの」
「へ~! じゅるり……」
タルト生地の上に、フレッシュなドミンゴがたっぷりと乗せられている。
トロピカルな香りに、可愛い見た目が食欲をそそる。
わたしは早速、一切れ取って口へ運ぶ。
「おいしー!」
サクサクのタルト生地、甘さの中にちょっと酸味があるドミンゴの果実。うーん、極上の味わい。
「もぐもぐ……。こんな美味しいスイーツもいただいちゃって……、やっぱり払うしかない!」
「なんの話?」
チコリが不思議そうに首をかしげる。
「そういえばチコリ、冒険者になってからグランパレスの冒険者ギルドに行ったことないよね」
「冒険者ギルド? うん、行ったことない」
わたしは立ち上がる。
「よし、みんな、今日は冒険者ギルドへ行こう!」




