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第四十七話 初めての魔法契約

 わたしは、剣の先で、親指をぷつっと刺す。


「痛っ」

「いいぞ、さあ魔法陣へ」


 わたしはリーゼロッテの描いた魔法陣へ進み出て、親指を横に向ける。

 ちょっと傷が浅すぎたかな……これじゃ垂れないかも。


 わたしは反対の手で、ぎゅうっと親指を挟む。

 すると、一滴の血が垂れていき、魔法陣に落ちた。


「……何も起こらない?」

「失敗したかな……いや待て」


 魔法陣の周りを、何かが回っている。

 炎だ。小さな青色の炎が魔法陣を回っている――。


 と思ったら、一気に炎が吹き出した。


「!」

「何なの?」


「成功だ! こら、ミオン、逃げるな」


 腰が引けているわたしにリーゼロッテが言う。


「だ、だって……」


「契約だ。契約するんだ」

「契約って、な、何を……何と?」


「今に現れる」


 リーゼロッテの言うとおり、魔法陣の真ん中から、何かがズズズッと姿を現し始めていた。

 気がつくと、いつの間にかうるさかった鳥の鳴き声が止んでいる。あたりはウソのように静寂に包まれていた。


「せ、セレーナぁ……こわい……」


 セレーナに助けを求めると、


「ミオン、がんばって!」


 ぐっと拳を握って応援してくる。

 わーん、もう逃げられない。


 そうこうしているうちに、魔法陣からはほっそりとした美しい少女が全身を現していた。

 わたしは少しだけ安心する。


「なんだ、きれいな女の子じゃない」


「風の精霊、シルフだ」


 リーゼロッテが言う。

 よく見ると、エメラルドグリーンの髪に白い羽衣、放つ雰囲気はどこか人間と違っていた。


(こいつは驚きだニャ。召喚成功ときた)


「ど、どうすればいいの?」


「はやく魔法契約を結べ。消えてしまう」


「そんなこと言われても……あの! 魔法を契約したいんですけど!」


 わたしは叫んだ。我ながらファストフード店でハンバーガーを買うみたいな言い方だと思った。


 少女は、わたしをじっと見て……微笑んだ。

 そして透き通る声で、言った。


「風の魔法――パラライズウインド」


「え、あ、あのっ……」


 だが少女は、それだけ言うと、もう用は済んだとばかりに口を閉じ――


 また魔法陣の周りを炎が回る。

 そして、少女は魔法陣の中へ去っていく。


 やがて鳥たちの鳴き声が戻ってきた。




   ◆




「え、えっと、どうだったの……かな」


 わたしは、魔法陣を念入りに消しているリーゼロッテに訊ねる。


「わからない。だが」

「確かめる方法はひとつね」


 セレーナが言う。


(新たな魔法が契約されたのニャらば……)


「よし、やってみよう」


 わたしは、両手を構え、精神を集中する。

 すう、と息を吸い込み、そして唱える。


「来たれ彼を吹はらう患難の聲よ、精霊の吹かす風よ……パラライズウインド!」


 両腕に何かを感じる。

 何かがわたしの両手を吹き抜けていく。


 目の前に立っている木の、枝葉がばさばさと揺れる。


 そして、その木から何かが落ちてきた。

 数匹の、鳥たちだった。


 リーゼロッテが駆けて行き、しゃがみこんで調べる。

 わたしはこわごわのぞきこむ。


「鳥さん……死んでるの?」

「いや、違う。だがどうやら動けないようだ」


「麻痺の呪文ね」


 後ろからセレーナが言う。


「相手を麻痺させる呪文って今まで……」

「聞いたことがないわ」


「ああ、そんな魔法、存在しない。つまり……」


 リーゼロッテはすっくと立ち上がり、


「魔法契約は成功だ!」


 と叫んだ。


「数百年の時を経て、たった今、新たな魔法が生まれたのだ!」


 よほど興奮しているのか、うろうろと歩き回りながら、早口につぶやいている。


「やはり、契約者の魔力が関係しているのは間違いない……魔力を持つ血が精霊を呼び出す……」


 わたしは、地面に横たわっている鳥が心配でならなかった。


「鳥さん、かわいそう」

「大丈夫よ、見て」


 セレーナがわたしの背中に手を置く。

 見ると、鳥たちが動きはじめていた。


「麻痺が解けかけているんだわ」


 やがて、鳥は起き上がり、一匹目、二匹目と順に羽を広げる。


(一定時間だけ、麻痺が続くようだニャ)


 にゃあ介が言う。


「よかった……」


 わたしが飛び立っていく鳥たちを見つめる中、リーゼロッテが言い放った。


「……素晴らしい! よし、次は悪魔と……!」


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