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第四百七十六話 三本の矢

「僕は、王子だから」


 セタ王子は言う。


「これからたくさん仕事をこなさないと」

「仕事って?」


 チコリが訊く。


「たとえば、国のさまざまな行事に参加しなければなりません」

「国の行事?」


 チコリはぽかんとして訊き返す。


「父の葬儀には参加したものの、慌ただしく帰ってしまいました。本当は、王位継承のための儀式にも参加しなければいけなかったのに」

「……」

「その埋め合わせも含めての仕事が、山積みなんです」


 セタ王子は続ける。


「本当はみなさんと一緒に行きたいんですけれど。……でもそれはできないんです」

「……」


 チコリはこう言う。


「そっか……大変なんだね、セタ王子」


 それからこう訊ねた。


「ねえセタ王子……王子、やめたい?」


 セタ王子は、


「いいえ」


 と胸を張って答える。


「たしかに大変だけれど、それは僕の役目だから。この国のために、僕ができる仕事だから」


 セタ王子は、にっこりと笑う。


「兄さんたちに比べたら、僕は楽なほうです」


 そして言う。


「じつは、魔法学校へ入学したのは、そのためもあるんです」

「どういうこと?」


 訊かれて、セタ王子は答える。


「ユビル兄さんを支えるために学校へ通うことを志願した、というのが大きな理由なんです」


 セタ王子は、こう話す。


「僕は兄さんたちのように身体が大きくも強くもないから……。魔法や薬草、魔物などの色んな知識をつけて、すこしでもこの国の力になろうと思って」


 頭を掻きながら、


「軍師とか参謀のような役割としてなら、僕にもできるかなって」


「えらい!」


 わたしは感心する。

 セタ王子が魔法学校へ来たのは、リーゼロッテのためだけだとばかり思っていた。

 ただのダメ王子じゃなかったんだ。


「ユビル王とユンヒェムとセタ王子と三人で力を合わせて国を治める……あれ、ほら、あの話みたいだね!」

(毛利家の三本の矢ニャ)

「そう! まさに三本の矢だね!」


 わたしが言うと、


「なにそれ?」

「三本の……なんだって?」


 皆くちぐちに訊き返してくる。


「え~っと、三本の矢っていうのはね……リーゼロッテ、ちょっと弓矢貸して」


 わたしはリーゼロッテから矢を借りる。


「この矢を折ってみて」


 わたしが言うと、チコリは矢を受け取って、


「むむむ……えいっ」


 と、折ってみせる。


「出来たよ!」

「ふふん。じゃあ、この矢が三本になったら折ることができるかな?」


 バキッ!


「はい」


 リーズが折った三本の矢を渡してくる。


「……」


 わたしは手の中のぽっきり折れた矢を見つめる。


「……」

「で? これがどうなるの?」

「……もー! リーズは怪力過ぎるんだよ!」


 わたしは地団駄を踏みながら言う。


「折れって言うから折ったんじゃない」

「そうじゃなくて! 本来なら……」


 わたしは三本の矢の逸話を皆に話して聞かせる。


「……と、いうわけで、自分の息子たちに力を合わせることの大切さを伝えるために、三人を三本の矢に例えたってわけ」


 なんとか説明し終えると、


「へえー」

「なるほど」


 皆、納得してくれる。とくにリーゼロッテは、


「ネコ族には、そんな話があるのだな」


 腕を組みながら、


「一本ではすぐ折れてしまうが、三本なら簡単には折れない。……いい話だな!」


 そんな風に感心している。


「グランパレスの三王子も、三本の矢のように、団結して、国を支えていけるといいわね」


 と、セレーナ。

 セタ王子は強くうなずく。


「そうですね」


 リーズが言う。


「まあ、あの軽薄な次兄はどうかと思うけど」

「あたしもそう思います!」


 チコリも同意する。

 するとセタ王子は、


「あはは……皆さんそう思われるかもしれないけれど、ユンヒェム兄さんもユビル兄さんと同じくらい凄い人なんですよ」


「えー」

「とてもそうは思えないけど」


 チコリとリーズは、信じられない様子だ。


 セレーナが言う。


「ユンヒェムは確かに軽薄だけれど、ああ見えて人望はあるし、あんな性格がかえって王宮内の人間関係を円滑にしているところもあるわ」


 わたしは思う。

 確かに、兄弟間の権力争いなんて、よく聞く話だ。

 グランパレスでそれが起きていてもおかしくはない。

 本人たちが望まなくとも、周りがそう仕向ける可能性もあるし……。


「もしかしたらユンヒェムって、あえてあんな風に演じてるのかもしれないね」


 そうつぶやいて、わたしは、


「そんなわけないか」


 即座に自分で否定する。


 とにかく、あの三人の兄弟たちが治めるなら、きっとこの国の繁栄は間違いないだろうと思えるのだった。


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