第四百七十五話 王子だから
ユビル王が両手を広げる。
「ようこそグランパレス城へ。歓迎するぞ」
「おぉ~」
わたしは、ぱちぱちと拍手をする。つられてみんなも拍手を始める。
ユビル王は、嬉しそうに何度も頷く。
「拍手は変じゃないか?」
と、拍手をしながらリーゼロッテが言う。
「いやあ、ゲームで見たような、いかにも王様っぽいセリフだったからつい……」
「大丈夫ですよ、ユビル兄さんも喜んでますから」
「セタ王子が言うなら、まあいいか」
そんなわたしたちを眺めていたユビル王は、セタ王子に目をとめ、
「ふふ……セタ、魔法学校へ通ったのは正解だったようだな」
と微笑む。
「いつも引っ込み思案なセタが、こんなに大勢の学友を引き連れてくるなんてな」
セタ王子はみんなを見ると、恥ずかしそうに、
「うん」
と頷く。
「……僕自身も、魔法学校への入学は、人生で一、二を争う良い決断だったと思います」
「そうかそうか。それは良かった」
ユビル王は言う。
「なかなか良い学校らしいな」
「ええ。良い学校です。そして何より、良いクラスメイトに巡り会えました」
「そうか」
王は続いて、リーズに目を移し、
「リーズ=エアハルト」
「はっ」
リーズが答える。王は、
「セタを安心して魔法学校へ送り出せたのは、そなたのおかげだ。礼を言う」
「とんでもございません」
「いや。通常ならば、セタには何人もの護衛の騎士をつけねばならないところだ。だが、そんな物々しい警護では、学校生活はままならないだろう」
王は言う。
「Sランク冒険者のそなたがいてこそ、今回のセタの入学が実現したのだ」
そしてもう一度、
「だからリーズ、そなたが護衛についたことは、本当にありがたかった」
と謝意を伝える。
「もったいないお言葉です」
リーズはかしこまる。
セタ王子も頭を下げる。
「まあまあ、二人ともそうかしこまるな。……兵はいない。いつも通りでかまわない」
ユビルはそして、笑った。
セタ王子も笑う。
「ありがとう。ユビル兄さん」
◆
「もう行ってしまうのかい? セレーナ」
グランパレス城の広間で、ユンヒェムが名残惜しそうに言う。
「王や王妃に会えたから、もう十分よ」
セレーナが答えると、ユンヒェムが親指を立てて白い歯を見せる。
「僕にも、だろ?」
「…………」
ユンヒェムは続ける。
「君の別邸へ行くのかい? ……僕もついて行ってあげたいところなんだけれど」
「…………」
「今ちょっとごたごたしていてね。しばらくは王都にいるんだろ? また会おうね、僕のセレーナ」
「…………」
ユンヒェムは投げキッスをすると、
「ではみなさん、ごきげんよう」
そう言って行ってしまった。
その後ろ姿に向かって、リーズとチコリは二人して、あっかんべーをするのだった。
◆
「なんなのよ! アイツ!」
リーズが怒りをあらわにする。
「軽薄です!」
チコリも言う。
「軽薄で、厚かましい人です!」
リーズとチコリは、ユンヒェムのことがよっぽど気に入らないらしく、
「はっきりと言ってやった方がいいわ」
「ビシッとお灸をすえてやりましょう? セレーナさま」
そう口々に言う。
セレーナは、
「変わらないわね、ユンヒェムは」
と肩をすくめる。
「……さて、それじゃあセレーナの別邸へ行こうか」
わたしは言う。
「ユリナさんやバートさんに会うの、楽しみだね」
すると、
「うん!!」
チコリが大きく頷く。
「魔法学校であったこと、いろいろ話すんだ!」
チコリは、本当に楽しみそうに、
「魔法の授業のこととか、みんなでお買い物行ったこととか、魔法大会のこととか!」
そう話す。
「お菓子作り対決のこととか、乗馬したこととか、あと魔法大会のこと!」
無邪気に続けるチコリ。
「失踪事件のことは、心配させちゃうかもしれないから黙っておこうかな……でも魔法大会で準優勝したことは、ぜったい話さないと!」
そんなチコリやわたしたちの様子を、微笑みながら見ていたセタ王子が言った。
「それじゃあ、僕は、これで」
「え? どうして?」
チコリが訊く。
「いっしょに来ないの?」
セタ王子は笑って答える。
「……僕は、王子だから」




