第四百七十四話 玉座の間
わたしたちはユンヒェムに連れられて、大広間から回廊へ出る。
「あ、雪……」
広い回廊を歩いていると、中庭に雪が降り積もっているのが見えた。
白い王都の、白い城に、白い雪が魔法みたいによく似合っていた。
そんな景色に見とれながら進んでいく。
やがて目的の部屋に到着する。
兵士の守る大きな扉を開け、中に入ると玉座の間だ。
床には刺繍が施された深紅の絨毯が敷かれており、その両脇に兵士が立っている。
奥に数段の階段があり、その上に真白な石で造られた玉座がある。
肘掛けの部分には、二対の白い獅子の彫刻が彫り込まれている。
ユンヒェムが言った。
「セタ王子およびセレーナ嬢……とその一行をお連れしました」
わー、ひとまとめにされた。まあべつにいいけど。
「うむ」
玉座に座っていた、ユビル王が答える。
以前、先代の王の寝室で会ったときには、精悍ではあったがまだ若さの残る印象だった。
だが今は、若くしてすでに王としての貫禄が漂っている。
それは、王という地位に身を置いた自覚のせいだろうか。
「長旅、ご苦労だったな」
王は、わたしたちをねぎらう。
セレーナとリーズが、胸に手を当てて頭を下げる。
わたしとリーゼロッテとチコリも、あわてて見よう見まねでぺこりと頭を下げる。
「さて」
王はそんな私たちを一瞥すると、
「それでだな……ええ……」
と、ちょっと話しづらそうに口ごもる。
「どうしたのかな?」
小声でリーゼロッテに訊く。
「なにか言いづらいことでもあるのだろうか」
王様が言いづらいことって何だろう。何か一大事でもあるのだろうか。
わたしはちょっと不安になる。
ユビル王が部屋の中の兵士たちに言う。
「……お前たち、下がってよいぞ」
「はっ。失礼いたします」
二人の兵士は礼をして、部屋を出て行く。
「さて」
兵士が出ていったのを確認すると、ユビル王は立ち上がる。
兵を下がらせてまで話さなければならないことって、いったい何事だろう?
なんだか緊張しながらそう思っていると、王はわたしたちに向き合い、こう言った。
「どうかな? 似合っているか?」
◆
王が、すこし不安そうに小声で訊ねるのを見て、わたしは噴き出しそうになる。
ユビル王の、おちゃめな一面を見た気がした。
「いやあ、王になってしばらく経つが、まだまだ慣れなくてな」
王は王冠の載った頭をぽりぽりと掻く。
ユンヒェムが言う。
「兄さんは、どこからどうみても立派な王様だよ」
「本当か?」
首を傾げるユビル王に、今度はセレーナが、
「よくお似合いです。先代の王にも劣ってはおりません」
そう言うと、ユビル王はうれしそうに、
「そうか。それはよかった」
と笑う。皆の間に笑顔が広がる。
と、セレーナが、
「それはそうと、王。……先代王の葬儀に参列せず、失礼をいたしました」
そう謝罪を始める。
するとユビルは、
「そのことは言いっこなしにしよう。そなたは学生の身……葬儀に出なかったのではない。出られなかったのだから」
「王……、ですが……」
「気にするな。先代の王も、そんなこと気にはしていない」
そう話を終わらせる。
「そんなことより……」
ユビル王はまた立ち上がる。
「どうしても言いたい台詞があるのだ。とても王らしい台詞なのでな」
それから満面の笑みで、両手を広げ、こう言った。
「ようこそグランパレス城へ。歓迎するぞ」




