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第四百六十九話 みんなで魔法練習

 今日は魔法練習会。

 放課後、わたしたち六人はトレーニング場に来ている。


「それじゃあ、期末試験対策、魔法実践編。やっていこうか!」

「期末試験対策……上級生である皆さんにご教授いただけるのは、非常にありがたいです」


 セタ王子が言う。


「私たちが一年生のときに受けた試験をもとにやっていこう」

「過去問をやるのが最も良い試験対策になるからね!」


 リーゼロッテとわたしが言うと、


「うん。ミオンたちは、一度、試験を通ってるんだもんね。心強いなぁ」


 と、チコリ。


「へへ、まあね。でも、あんまり当てにしないでよ」

「心配しなくても、全乗っかりする気はないわ」


 とリーズが口をとがらせる。


「そ、そう……とにかく、始めよう。リーゼロッテ?」

「ああ。では黒魔法の試験対策から始めよう」


 リーゼロッテがうなずく。


「一年目の試験では、水の魔法を使って、並べられた瓶を制限時間に倒す、という課題が与えられた」


 リーゼロッテは言う。


「そのときの試験と大体同じ形式で練習しよう」

「用意してきたわ」


 セレーナが後を受けて話す。


「ここに並べましょう。全部瓶ではないけれど、沢山あるわ」


 わたしたちが、持ってきた布袋を地面に置くと、ガシャン、と音がする。


「さあ、みんな手伝って」


 布袋をひっくり返すと、瓶や缶、箱、棒切れなどがごろごろと転がり出てくる。

 皆で手分けしてそれらを地面に並べる。


「私たちの試験のときは、30本だった。とりあえず、それだけ並べよう」


 並べ終わると、安物のガラクタ市みたいな見た目になる。


「離れて」


 わたしたちは、陳列されたガラクタから距離をとる。


「これくらいだったかな?」

「そうね……教室の中だったから、このくらいでいいんじゃないかしら」

「よし。それじゃあ……まずはセタ王子! やってみよう」


 リーゼロッテに言われて、


「ぼ、僕ですか。緊張するなあ」


 としり込みする王子。


「こんなところで緊張してたら、本番の試験に通らないぞ。さあ、前へ出て」


 セタ王子は、うなずくと前へ一歩踏み出す。

 ガラクタ市へ目をやり、


「あれを水の魔法で倒すんですね」

「ああ。順番はどうでもいい。制限時間があるから、ゆっくり狙い過ぎてもだめだ」


 目の前に並ぶ瓶や缶やら棒切れを眺めて、セタ王子は精神を集中させている。


「いきます!」


 セタ王子は両手を前へ伸ばし、魔法を唱える。


「古の水の流れよ、我が元へ来たりて敵を打て……ウォータ!」


 王子の手元に水流が出現し、前方へ飛ぶ。


「くっ」


 しかし、セタ王子の放った水流はガラクタをそれて、地面を叩く。


「もう一度!」


 リーゼロッテが言う。セタ王子は構え直して唱える。


「ウォータ!」


 水流は、今度はガラクタめがけて飛んでいく。

 右から二番目の棒切れに当たり、それを弾き飛ばす。


「わるくない」

「いいわよ、セタ王子」

「さあ、どんどん行こう!」


 セタ王子は、息を大きく吸い込むと、また両手を伸ばして構え直す。

 ガラクタ市をにらんで、唱える。


「ウォータ!」




   ◆




 セタ王子が肩を落としている。リーゼロッテが近づいて言う。


「最初からうまくできる人はいないさ」

「はい……」


 前方のガラクタ市の辺りは、地面が濡れて黒くなっている……が、肝心のガラクタは、半分以上が、並べたときのまま、立って残っていた。


「試験、大丈夫でしょうか」


 しょげ返る王子に、わたしは言う。


「うーん、そうだなあ……」


(どうも王子は、精神面が弱いニャ)


 と、にゃあ介。


「精神面?」

(大事な場面や人の注目を集めているときに、本来の力を発揮できてないニャ)

「なるほど……」


 わたしはセタ王子に向き直り、


「となると、セタ王子にはメンタルトレーニングが必要だね!」

「メンタル……トレーニング……ですか?」


 王子が首を傾げる。


「そう! プレッシャーを感じる中でも集中力を絶やさない練習だよ」


 わたしはみんなを振り返り言う。


「みんな、セタ王子に注目! 王子の一挙手一投足をじーっと見てあげて!」


 みんなはこくりと頷くと、


「じー」


 揃ってセタ王子の様子を凝視する。


「あ、ああ、あのあの」

「さあ王子、水の魔法で瓶を狙って!」

 

「じー」

「うっ、うっ、ウォータ!」


 水が瓶をそれて、何もない地面をたたく。


「集中集中!」

「う、ウォータ!」

「じー」


「みんな、もっと近くで見てあげて!」


 みんながセタ王子に近寄る。


「じー」


 眼鏡を押さえて至近距離で観察するリーゼロッテ。


「う!?……ううう……うううぉーた!?」


 水があさっての方へ飛んでいく。


「集中集中!」

「うっ、うぉーたっ!」

「じー」


「うぉーたぁっ!」

「じー」


 …………




   ◆




「だいぶ良くなったね!」


 わたしが言うと、


「そうだな、後半はかなり命中するようになっていた」


 とリーゼロッテとセレーナ。


「……はい……」


 セタ王子はぐったりとして地面にへたり込んでいる。


「これなら試験本番もいい点数が期待できるんじゃない?」


 セレーナが言うと、


「……ありがとうございます……」


 と疲労困憊した様子でセタ王子が答える。


「よーし、それじゃあ次は、チコリとリーズの番だね!」

「ふたりとも、自分たちの分を並べて、やってみるんだ」


 言われて、二人とも急いでガラクタを取りに走る。


「はやく練習したくてたまらないみたいね」

「落第がかかってるもんね。当然だよ」


 広場には、魔法を唱える声が、こだまのように鳴り響くのだった。

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