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第四十六話 魔法の契約って?

 リーゼロッテのあとについて、わたしとセレーナは寮の中を歩いている。

 廊下の一番奥の部屋の前で止まると、リーゼロッテは扉を開け、言った。


「入れ」

 

 中へ入って驚いた。その羊皮紙の量ときたら!

 机の上はもちろん、床の上まで、所狭しと並んでいる。


 そして、ほとんどが白紙ではない。

 膨大な量の羊皮紙の束が、手書きで埋められている。


 ちらりと目に入ったのは、見覚えのある図形だった。あれは、もしや、魔法陣……?


「すごい……これ全部書いたの?」

「そんなことはどうでもいい。簡単に魔法について説明するから聞け」

「は、はい」


「魔法とは、過去の人々が精霊、または悪魔と契約した遺産である。つまり我々が現在魔法が使えるのは、先人たちと、精霊・悪魔との契約が未だ履行されているからである」

「うん」

「それは魔法学総合の授業で聞いたわ」


「そして、魔法の契約には、精霊または悪魔召喚のための個別の魔法陣が必要である」

「ああ、えっと……図書館で読んだ本にあった」


「そうか。本はいいぞ。読めば読むほど賢くなる」


 リーゼロッテはメガネをずり上げながら言う。

 いつも図書室にいる、本好きのリーゼロッテらしい台詞だ。


「今では魔法の役割によって白魔法、黒魔法と分類されているが、昔は精霊との契約が白魔法、悪魔との契約が黒魔法とされていた」

「ふんふん」


「精霊及び悪魔は、契約すると一体につき一つの魔法を与えてくれる」

「へえー」


「と、偉そうに講釈をたれてみたが、真偽のほどは定かではない」

「どうして?」

「文献にあたっても、確かなことが載っていないのだ。何せ、実際に精霊や悪魔を呼び出した例など、ここ数百年来知られていない。神話みたいなものだ」

「そうなの……」


「とにかく、学校にある古い書物を片っ端から読んでいった」

「片っ端から、ってどれくらい?」


「まだめぼしいものを半分ほどしか読めていない」

「半分も! あんなに沢山あるのに!」


 うん、本好きっていうか、もう中毒ね。

 わたしもラノベなら、結構読んだけど……。図書室のあのワケワカンナイ文章を片っ端から読むとかありえない。


「その中には契約に必要な魔法陣と思われるものも幾つかあった。判別不能なものもあったが、わかるものは書き写して列挙してみた」

「面倒くさそう……」


「全部写さないことには、わからないからな」


 リーゼロッテは事も無げに言う。


「それで? 何かわかったの」


 セレーナが先を促す。


「ああ。重要なことがわかった。現在使えるとされている魔法の数よりも多い数の魔法陣があったのだ」

「え、どういうこと?」

「それってつまり……」


「そうだ。つまり、まだ契約されていない魔法が存在する」


「すごい!」


「大したことじゃない。時間をかければできる」


「いいえ、大したことよ。誰にでもできることじゃないわ」


 わたしとセレーナに褒められて、リーゼロッテは戸惑った顔を見せる。


「とにかく、目的は新たな魔法を契約することで……」


 話を逸らすリーゼロッテ。


「どれがどの魔法契約の魔法陣かわかるの?」


「古い書物に載っている魔導文字と照らしあわせて、なんとなくだが」

「やっぱりすごい! 天才よあなた」


 リーゼロッテは居心地悪そうに、


「例えばこれは、おそらく炎の魔法の契約、イフリートを呼び出す魔法陣だ」


「へええー、これが! ……イフリートかぁ……」


 そこに描かれている、六芒星の周りに記号や文字が並んだ円陣は、アニメとかでよく見るやつとそっくりだ。


 わたしが感心していると、


「本題はここからだ」


 リーゼロッテは一枚の羊皮紙を取り出した。


「ここに、今は契約されていない未知の魔法陣がある」


 リーゼロッテは羊皮紙を広げる。


「これをミオンに魔法契約してもらいたい」




   ◆




 リーゼロッテに連れられてセレーナと共にやって来たのは、ルミナスの北のはずれにある開けた丘だった。

 まばらに生えた木々の間に、荒涼とした岩場が広がっている。

 その中に、ひときわ平らで、大きな岩が。


「前からここに目をつけていたのだ」 


 リーゼロッテはさっそく手にした羊皮紙を確認しながら、岩の上に円形の陣を描いていく。


「ここがこう、ここがこう、と……」


 わたしたちは黙ってそれを見つめる。

 鳥たちがひっきりなしに鳴いていた。


 白墨で描かれた魔法陣の大きさは、直径二メートル程度。

 円の一番内側に幾何学図形、その周りを文字のようなものが囲んでいる。


 リーゼロッテは間違いがないように何度も確かめている。


「間違ったら、何が起こるかわからないからな」


「た、たとえば?」


 びくびくしながら訊ねるわたしに、リーゼロッテは肩をすくめてこう答えた。


「さあな。悪魔に憑かれるとか、命を落とすとか……?」


「へ、へえ?」


 平気なふりをして、わたしはごくり、と唾を飲み込んだ。


「まあ、そんなに危険なの?」


 セレーナが気色ばむ。


「最悪の場合だ。おそらくは、失敗しても何も起こらないだけだ。だがまあ、心構えしておくに越したことはない」


 にゃあ介、大丈夫かな?

 わたしはにゃあ介に呼びかける。


(たぶんな。リーゼロッテの言うとおり、失敗しても何も起こるまい。問題は……)


 問題は?


(成功したときだ)


 …………。


「よし、それじゃあ、ミオン頼む」

「え?」


 リーゼロッテは当然のようにこう言う。


「血を」

「…………」 


 わたしは腰に差した短剣に目をやる。この短剣で、いろんな魔物を倒してきた。

 一応火で消毒はしたけど、病気とか大丈夫かな。


 そんなことを考えていると、


「はやく」


 とリーゼロッテが急かす。どうやら、実験が待ちきれないらしい。


「もう……しかたない」


 わたしは覚悟を決めた――。


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