第四百六十八話 みんなでお勉強! その2
皆それぞれ、勉強を進めている。
わたしは参考書を開いたまま、固まっている。
今読んでいるのは、『魔物生態学』……いろいろな魔物の特徴や、生息地域などがずらっと載っている。
「何なの、この量! 魔物ってこんなに種類があるの? こんな分厚い図鑑見たことないよ!」
ざっと目を通すだけで、一苦労だ。
「ミオン、進んでる?」
セレーナが訊ねる。
「あんまり……」
自分で言って、わたしは心配になる。
「……間に合うかな」
「大丈夫よ。まだひと月あるわ。それに、今までも乗り切ってきたじゃない」
「そうだ。これまでの二年も、何とかなっただろう?」
「う、うん」
わたしはうなずきながら、
でも、今回はやばいかも。今度こそまずい気がするんだよぅ……。
と弱音を吐きたいのを我慢する。
それを知ってか知らずか、二人は言う。
「また、一緒のクラスになれるといいわね」
「ああ。やはり三人一緒でないとな」
プププ、プレッシャーえぐいんですけど……。
わたしは、また涙をこらえて参考書を開く。
「脳がオーバーヒートしそう……」
とにかく、やれるだけやるしかない。
半泣き状態で勉強を続けるわたしの頭の中で、呑気な声がする。
(まあ、頑張るニャ)
◆
「あ、頭が割れるー」
寮のベッドに倒れ込む。外はもう暗い。
「毎日少しずつやっとかないからニャ」
ぬいぐるみのにゃあ介が言う。
「こんなの一か月も続けたら、しんじゃうよー」
「ワガハイはなかなか面白いニャ。本を読むのは嫌いではニャいからニャ」
「もう! 猫はいいわよね。試験がないから……ん?」
ふと気づいて、わたしは笑う。
「ねぇねぇ、にゃあ介さん~」
「ニャんだそのネコ撫で声は」
「わたしが読んでた参考書の内容、にゃあ介も覚えてるんでしょ?」
「……前も言ったがワガハイは試験に興味はニャい」
「じゃあネコまんま生活1か月でどうだ!」
「どうだとはニャんだ。そんな誘惑には乗らないニャ」
「ぶー。ケチ」
わたしは膨れる。
「自ら恃みて人を恃むこと無かれ。他人の力に頼っては駄目ニャ」
「何よ、それ誰の言葉?」
「かつお節……じゃニャい、韓非子の言葉ニャ」
「ちょっと揺らいでるじゃない」
「……寝ろ」
にゃあ介とそんな話をしながら、わたしは眠りに落ちていく。
これではたして、また二人と同じクラスになれるのだろうか。
いや、すくなくとも、落第せずにすむのだろうか……。
ルミナスの夜は、もう寒い。
試験まで、あと一か月弱。
◆
今日もお勉強……。
わたしはみんなと一緒に、図書室で参考書とにらめっこしている。
「ねえミオン」
チコリに話しかけられて、
「ふわぁ……なぁに?」
われながら、疲労の色のにじむ声が出る。
「あのさ、魔法の実技試験、ってあるよね?」
「実技試験? ああ……」
わたしは参考書から顔を上げる。
「もちろんあるよ。習った魔法を実演するの」
わたしは話す。
「一年目の試験で、わたし、教室を水浸しにしちゃってさ」
思い出して、吹き出す。
「ヒネック先生まで、びしょぬれにしちゃったんだ。……なつかしいなぁー!」
「あのヒネック先生を? そんなことがあったの」
チコリとわたしは一緒になってくすくす笑う。
「こらふたりとも、図書室だぞ」
リーゼロッテに注意されて、思わず手を口へ当てる。
わたしは声を落として、言う。
「減点されちゃったけどね」
すると、
「実技試験ですか。僕はそっちの方が不安だな……」
とセタ王子が言う。
「魔法のコントロールメインの試験だから、きっと大丈夫だよ」
わたしは言う。
「大会のとき、対ガーゴイル戦のために、三人ともずいぶん練習したもんね」
「一応、復習しておきたいですね。あれ以来、魔法を使う機会があまりないので……」
セタ王子の言葉に、
「そう? じゃ、明日はトレーニング場で魔法の練習しよっか」
セレーナとリーゼロッテが、ジロリとわたしを見る。
「な、なに?」
「ミオン、本当に試験のため?」
「勉強したくないだけじゃないだろうな」
「…………ももも、もちろんだよ!」
(なんだか、変な間があったニャ)
「三人のため、それからわたしたち自身のためにも、明日は魔法練習会。決まりだから!」
わたしはそう言うと、参考書を開き直す。
「ミオン」
「なに? 座学だってちゃんとやってるでしょ」
文句を言うわたしに、リーゼロッテは言う。
「本が逆さまだぞ」




