第四百六十六話 近づく期末試験
「よかったあ!」
わたしは学校から寮への帰り道を歩きながら、今日の出来事を思い出す。
退学を言い渡されて、一時はどうなることかと思ったけど……結局なんとかなった。
その上、来年度の授業料は免除。大手を振って学校へ通うことができる。
「それにしても、学費免除だって! どうしようかなあ」
「どうしようって、何が?」
「…………」
「ミオン、よだれが垂れているぞ」
「さては、浮いたお金で何か食べようとしてるニャ?」
「ち、ちがうもん!」
わたしは慌てて口を拭う。
「一年分の授業料があれば、あれも食べられるしこれも食べられる、なんて考えてないもん!」
わたしの言葉に、セレーナとリーゼロッテとにゃあ介がやれやれ、と首を振る。
「ミオンらしいな」
「ミオンてば、いつもごはんのことばっかり考えてるんだから」
「そんなことないもん! デザートのことも考えてるもん!」
「…………」
「…………」
「…………」
「だけどやっぱり」
わたしはこう思い直す。
「わたしたちの学費を寄付してくれた自警団の人たちのためにも、より一層勉強に励まなくちゃ!」
わたしは空を見上げながら拳を握る。
「そうね」
「そうだな」
セレーナとリーゼロッテも微笑んでそう言うのだった。
◆
失踪事件から数週間が経ち、ルミナスは一応、平静を取り戻していた。
自警団によるレイス捜索は一応続いているけれど、おそらくもう彼は見つからないだろう。
ルミナスにおいて、魔族が誘拐事件を起こすなど、かつてなかったことらしい。
これもやはり、王の崩御が関係しているのだろうか……。
魔法学校では、いつも通り授業が続いている。
たが、やがて皆の様子が慌ただしくなってくる。
そろそろ、期末試験の季節が近づいていた。
◆
「まずいよまずいよ、もうすぐ試験だよ!」
わたしは慌てふためいて、甲高い声を上げながら食堂の席に座る。
「どどどど、どうしよう」
そうなのだ。もうすぐ学期末試験がある。
その成績次第では、来年度のクラス分けに影響してくるのだ。
「落ち着け、ミオン」
リーゼロッテがなだめる。
「そうよ。まだ焦るような時期じゃないわ」
セレーナも言う。
「焦るような時期だよ!」
わたしは膨れる。
「二人は普段から勉強してるから、そんな悠長なこと言ってられるんだよ!」
「期末試験って、そんなに大変なのですか?」
とセタ王子。
「そうね。一年の成果を見る試験だもの」
セレーナが言う。
リーズはフォークで肉を口に運びながら、
「試験くらい、楽勝よ」
と、すましている。
チコリがスプーンを咥えてこちらを見る。
「ミオンは試験勉強してるの?」
「や、やってるよ!」
わたしは言う。
するとセレーナが、
「本当かしら?」
「ほ、ほんとうだし!」
セレーナに言い返すわたし。
「ならいいけれど。……学期末試験の成績によって、次の年のクラスも決まるの」
「あまりにひどい点数だと、落第もありうる」
カチャーン、とチコリのスプーンの落ちる音が鳴る。
「ら、落第……」
チコリの顔が青くなる。
「ど、どうしようミオン。あたし、試験なんて初めてで……」
チコリは、泣きそうになりながら言う。
「ぼ、僕も……。勉強はしてきたつもりなんですが……」
セタ王子も、おろおろと落ち着きがない。
「な、なによ。試験くらい……」
先ほどまで勝気だったリーズも明らかに動揺気味だ。
ここは先輩として、三人を励まさねば。
わたしは、明るく言う。
「大丈夫だよ! わたしも全然勉強してないし!」
「いや、ミオン。それは大丈夫じゃない」
とリーゼロッテ。
「やっぱり全然やってないんじゃない」
とセレーナ。
三人は、青い顔でわたしを見つめてくる。
わたしは言う。
「まあ、なんとかなるよ!」
その根拠のない励ましに、皆、ますます青くなる。
「あはは……」
これは、わたしじゃ解決不能な問題だった。
「こ、こうなったら」
困った挙句、結局、わたしは毎年慣例の解決策を提示するのだった。
「みんなで勉強しよう!」




