第四百六十一話 魔族の男3
「ありがとう、リーゼロッテ!」
わたしは、倉庫の外へ向かって、大声で叫ぶ。
さすがリーゼロッテ。
どうやら、セタ王子と二人で、チコリとビリーを無事救出したようだ。
「多少はおつむの切れるお仲間がいるようだな。だが……」
レイスは言う。
「思う存分戦え、だと?」
青白い顔に薄笑いを浮かべながら、
「……まるで、今までは手加減していたとでも言いたげだな?」
と、面白いものを見るような目で訊く。
後ろで見守っていた部下たちも、
「ひゃははぁ!」
「頭相手に手加減だぁ? 笑わせるぜ!」
と馬鹿にしたように笑う。
いかにも呆れて物が言えない、といった様子だ。
わたしは鼻をこすって、
「へへ~、それがその通りだったら?」
そう言う。
「うそをつけ!」
レイスの部下たちの言葉に、
「どうかしらね」
セレーナが答える。
「ガキどもの分際で……生意気な冗談言いやがって」
わたしたちの言葉に、レイスの部下たちはいきり立つ。
「頭を怒らせたらどうなっても知らんぞ!」
顔を真っ赤にして、男たちは口々に言う。
わたしは、
「だって、本当だもん」
と答える。
「だけど」
とわたしは口角を上げ、
「人質を取り返したからには、手加減しないよ」
「減らず口を!」
「この小娘め!」
「まあ、見てればわかるって」
わたしはセレーナに目配せする。
セレーナはすでに魔法剣の構えに入っていた。
「我求めん、汝の業天に麗ること能わん……ダークフレイム」
セレーナが唱える。
その手から、炎が刀身に移っていく。
「な、なんだあれは?!」
「剣が、燃えている?」
男たちがざわめく。
セレーナの剣が炎を纏い、赤く輝く。
暗い倉庫内で、ゆらめく炎は鮮やかに燃える。
「!」
魔族の男、レイスの表情も変わる。
その顔に、今までになかった警戒の色が宿る。
「驚いた?」
わたしは微笑む。それから、
「さて」
わたしは肩のぬいぐるみをぽん、と叩き、
「もどって、にゃあ介」
そう声をかける。
すると、頭の中に声がする。
(ただいまニャ)
にゃあ介は言う。
(……王子のおもりは、苦労したニャ)
「おつかれ」
わたしはうなずいて、言う。
「それじゃ、わたしもいくよ?」
セレーナの剣に気をとられていた男たちが、いっせいにわたしの方を向く。
「な……、今度は何だ?」
わたしは詠唱を始める。
「我が傍なる霊魂よ、小さき者に乗りてとび、その翼にて翔けり給え……」
そして、
「ブラストスピリット!」
そう唱え、呼び出す。
「胡桃沢美音の名において命ず。出でよ、モノアイ・クリーパー!」
男たちが度肝を抜かれる中、倉庫内の麻袋という麻袋から、白い粉が竜巻のように舞い上がる。