第四百六十話 魔族の男2
「頭が剣を抜いた……!」
「久しぶりに頭の剣が見られるぞ!」
男たちが色めき立つ。
「セレーナ、気をつけて!」
わたしはルミナス・ブレードを抜いて構える。
隣では、セレーナが聖剣エリクシオンを構えていた。
「ほう? いい剣だ……」
魔族の男、レイスが呟くように言う。
「小娘には、もったいない」
レイスが剣を手に、倉庫の奥から近づいてくる。
わたしより背が高いから、上段に構えるのかな……と思ったのも束の間。
レイスは、長い剣を下段にぶらりと下げたまま、一気に距離を詰めてきた。
――速い!
「セレーナ!」
レイスの剣が、セレーナ目がけて繰り出される。
セレーナは、エリクシオンでそれを弾く。
剣と剣の間に火花が迸る。
レイスは第二撃、第三撃と剣を繰り出す。
レイスは、まるで適当に剣を振っているみたいに、滅茶苦茶な太刀筋で襲い掛かる。
「すげえ!」
「うおお! さすがレイス様!」
その一撃は、恐ろしく速い!
しかしセレーナは、それをすべて弾き返す。
わたしは、斜め後方から、レイスに斬りかかる。
レイスは、こちらを見もせずに、わたしの剣を弾いた。
「なんだ、この小娘たちは? お前たちより、よっぽど腕が立つぞ」
魔族の男は、けだるそうに言う。
「か、頭……申し訳ない」
その後ろで、男たちは縮こまっている。
「俺の部下は、ゴミくず同然じゃないか……」
レイスは、心底呆れたようにため息を吐く。
「人質を返しなさい」
セレーナが言う。
その言葉に、レイスは笑う。
乾いた笑い声には、温かさの欠片もなかった。
レイスは、またノーモーションで剣を繰り出す。
わたしとセレーナは、必死でそれを受ける。
レイスはわたしたち二人を相手に、面倒くさそうに剣を振り回す。
わたしたちは防戦一方だ。
剣がぶつかり合う音が、倉庫内に響く。
レイスは長身で剣も長いため、ときどき剣の先が地面を擦ったりするのだが、そんなことお構いなしに攻撃してくる。
パシッ
音がして、近くに積まれていた袋が破れる。
レイスの剣がかすめたのだ。
袋から白い粉が舞い上がり、ただでさえ薄暗い倉庫内の視界がさらに悪くなる。
だが、レイスは全く意に介さない。
魔族の男は、終始、なんだかやる気がない感じなのに、嘘みたいに強い。
わたしたちは、少しずつ壁の方へ後退せざるを得ない。
「ぐっ……これじゃ、ジリ貧だよ」
レイスの剣を受けながら、わたしは歯噛みする。
「セレーナ、何かいい手ない?」
「……」
セレーナは、言う。
「この男、強いわ。このままじゃ、勝てない」
「くぅ……」
わたしは言葉を失う。
レイスはまたも、やる気のない構えで剣を振りかぶる。
そのとき……
「ミオン! セレーナ!」
倉庫の外からリーゼロッテの声が届いた。
「人質は解放した! 思う存分戦っていいぞ!」




