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第四十五話 三人目の仲間

 少し肌寒い日だった。

 鉛色の空の下、魔法学校の屋外で、わたしは黒魔術の授業を受けていた。


 今日は、水の魔法の実践だ。

 ヒネック先生は、みんなの前で、魔法を実演しようとしている。


「手を水瓶にかざし、こう唱えよ……ウォータ!」


 そのとたん、先生の手から水が噴き出し、水瓶の中へ、どどど、と注がれる。

 生徒たちから感嘆の声が漏れる。


「では、各自このとおりやってみること。……ただし!」


 ヒネック先生は言った。


「調子に乗ってやりすぎないこと」


 その目はぎろりとわたしを睨んでいるように見えた。


(釘をさされているぞミオン)

「やっぱり? 前は水瓶、溶かしちゃったからね……気をつけよう」


 わたしはそっと水瓶に手をかざし、


「ウォータ」


 と静かに唱えてみる。

 しかし、何の変化も起きない。


「うーん、やっぱりアレ、やらないとだめか」


「ミオン、はやくはやく」


 となりで、セレーナが期待に満ちた目で見つめている。

 仕方ない……やるか。


 わたしは手をかざし、両目を閉じると、ラノベ呪文を唱えた。


「我求めん、汝ら猛き水よ、獣どもの牙を折り石を鑿て……イブルウォータ!」


 瞬時に、手から水の奔流が迸る。


「うわ」


 量だけでなく、その勢いの凄まじいこと。わたしは必死で手を押さえる。


 ようやく水が止まった頃には、足下は水浸し。

 そして、水瓶はものの見事に割れていた。


「どうしよう……またやっちゃった」


(魔力を制御できていニャい……こちらも修練が必要のようだニャ)


 ヒネック先生が足早にやってくるのを見ながら、今度こそ弁償は免れないだろうな、などと考えていた。


 そして、そのときのわたしは知らなかった。校舎の中から、その様子をじっと窺っている、二つの目があることを。




   ◆




 授業が終わり、わたしはセレーナと一緒に、校舎へ戻ろうとしていた。


「やっぱり、ミオンの魔法はすごいわね」

「でも、先生に怒られちゃった」

「しょうがないわ。それより、今回のも素敵な呪文!」


 しゅんとしているわたしを、セレーナが慰めてくれる。

 その言葉に、わたしが元気を取り戻し、顔を上げたときだった。

 校舎から、一人の女の子が飛び出してきた。


「あ」


 何かを探している様子のその人物は、あの、図書室にいたメガネの女の子だった。


「あら? あの子……」


 セレーナが言うより早く、女の子は、わたしを見つけ叫んだ。


「いた!」


「え、何?」


 メガネの子は、わたしの元へ走ってくると、こう言った。


「友達になりたいと言っていたな?」

「え」


 呆気にとられるわたしとセレーナ。


「私の力を借りたいのだろう?」

「え、ええ、まあ……」


 すると、女の子は、メガネを人差し指と親指でつまみながら、


「いいだろう、望みを叶えてやる。ただし条件がある」


 と言う。

 そしてこう続けた。


「その魔力を貸してもらう」


 メガネが反射して白く光る。




   ◆




「魔法契約?」


 わたしは訊き返す。


「魔法を契約するために魔法陣を使って精霊を呼び出す。そのときに契約者の血液が要るのだが、私ではうまくいかなかった」


「け、血液?」

「ほんの一・二滴だから心配するな。問題は、契約者の持つ魔力」

「魔力……?」


「つまり、強い魔力をその身に宿したものでないと、魔法を契約できぬらしいのだ。まだ仮説に過ぎないが」


(ふむ。興味深い……)


 にゃあ介の声がする。


「あなた、それを自分一人で発見したの?」


 セレーナも驚く。


「他に友人もいないんでな。……とにかく、欲しいのは魔力。お前なら実験にうってつけなのだ」


 そう言うとわたしを指さす。


「わ、わたし、実験台にされるの……?」


「聞こえは悪いが、平たく言えば、そのとおり。私の実験台となるのなら、力を貸してやろう。おおかた、ウィザーディング・コンテストに出場したいのだろう?」


「!」


 わたしとセレーナは顔を見合わせる。


「そんなことだろうと思った。友達になりたいなどと、甘っちょろいことを言わずに、ズバリ本題を示してもらいたいものだ」


「で、でも、本当にお友達にもなってもらいたくて……」

「いいから早く決めろ。実験台になるのか、ならないのか。時間がもったいない」


 少し考えて、わたしは答えた。


「わかった。わたし、実験台になる」

「ミオン!」


 セレーナがわたしを見る。


(いいのか? 危険かもしれんぞ)


「いいの。ただし、これだけは約束して」

「何だ」

「これからは、わたしとセレーナのことを名前で呼ぶこと。それから、あなたの名前を教えてちょうだい。わたしたち三人は、今日から友達だから」


 狐につままれた様子のメガネの子。

 しばらくぽかんとわたしを眺める。そして、言った。


「……わかった。約束する。私の名は、リーゼロッテ。リーゼロッテ=アンダーセン」


 わたしはリーゼロッテの手を無理矢理取って、握手する。


「わたしミオン。こっちがセレーナ。よろしくね、リーゼロッテ!」


 わたしに手を握られ、戸惑うリーゼロッテ。


「よし、そうと決まったら……」

「?」

「三人でランチ食べに行きましょ?」

「はあ?」


 ぷっ、とセレーナが噴き出す。


「何がおかしい」


 リーゼロッテが訊く。


「思い出しちゃった。ミオンって、私と出会ったときもこうだったの」


 セレーナはリーゼロッテに笑いかける。さらに戸惑うリーゼロッテ。


「お前……ミオンは、変人だな」


「そう? 何かうれしい」


(よろこぶところか?)


「わたし、ずっと平凡過ぎる自分がイヤだったんだ。……今でもそう。セレーナやリーゼロッテの方が、個性的でうらやましいな」


「……いや、ミオンも相当変わっている」


「そうかな?」


 ポリポリと頭を掻くわたし。


「さ、早く行こう。わたし、もうおなかペコペコ」


 そう急かすわたしに、リーゼロッテはまたぽつりとつぶやいた。


「やっぱり、変なやつだ」


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