第四百五十八話 失踪事件9
倉庫の中は、薄暗い。
壁の近くには、何かの詰まった麻袋が山のように積み上げられている。
セタ王子は、男たちに囲まれ、腕を掴まれて身動きが取れない。
男たちは七~八人ほどいるようだ。
「何だお前は?」
男たちの一人が言う。
「正義のヒロインよ」
わたしはそう答える。
(ふざけている場合か?)
にゃあ介があきれる。
「王子から手を離しなさい」
わたしの後ろからやってきたセレーナが、言う。
「何だぁ? 小娘ばかり二人も……」
「三人だ」
さらに後ろからリーゼロッテが顔を出す。
男たちは面食らっている。
「その手を離しなさい」
セレーナがもう一度言う。
「痛い目にあいたくなければね」
その言葉に、男たちは笑い出す。
「ぎゃははは!」
「おい、俺たちを痛い目にあわせるとよ!」
「嬢ちゃん、ちょっとよくわかんねえなぁ。痛い目ってのは……」
王子の腕を掴んでいた男が、言う。
「こういうやつかい?!」
男が王子の腕を捻り上げる。
王子が痛みにうめく。
「おやおや、痛かったでございますか、王子さま」
「王子さま、ひどい目に合いましてございますねえ……」
「ひゃははは!……うおっ?!」
セレーナの動きは速かった。
男たちに向かって突進し、身体を当てる。
三人の男が、セレーナに突き飛ばされて吹っ飛ぶ。
二人は地面に転がり、一人は麻袋に突っ込んだ。
間髪いれず、セレーナは、王子の腕を掴んでいた男の手を取って、捻り上げる。
「ぐぁあああぁ!」
痛みに悶絶する男。
「王子、はやく!」
王子がセレーナに連れられて、こっちへ走ってくる。
「この……」
「そいつを渡しやがれ!」
男たちがセレーナに向かって、飛びかかろうとする。
わたしはとっさに前に出て、剣を構える。
「セレーナに指一本でも触れたら、斬るから」
「お前みたいなガキに、そんなことができんのか?」
男の一人が、構わず飛びかかってくる。
わたしは剣を振る。
「うおっ!」
「斬る、と言ったでしょ」
「……!」
男の腕から青い血が流れる。
「……クロースか」
リーゼロッテが言う。
男はにやり、と笑う。
「驚いたか? そうと分かったら、大人しく王子を返してもらおう」
男たちが詰め寄ってくる。
「王子は渡さない」
わたしは、王子の前へ立ちふさがり、言う。
と、声がする。
「やれやれ……」
倉庫の奥の暗がりに、もう一人、男がいる。
「何をやっている?」
暗くてよく見えないが、男はかなりの長身だ。
「レイス様!」
男たちがいっせいに、その長身の男の方を振り返る。
「……どうやら、あれが黒幕だな」
リーゼロッテが言う。
セレーナに腕を捻り上げられた男が、話す。
「すんませんレイス様。ちょっと不意をつかれて……」
「だまれ。この役立たずが」
「ひっ」
男は、レイスという男のことを、心底怖がっているようだ。
暗がりから、長身の男――レイスがゆっくりと姿を現す。
レイスは言った。
「王子ひとりで来い、と伝えたはずだが?」
レイスの髪は紫で、その皮膚は青白い。
そして、男の目は赤く、瞳孔は金色に光っていた。
「あの男……」
リーゼロッテが言った。
「魔族だ」