表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
458/597

第四百五十七話 失踪事件8※挿絵あり

 街のゴロツキどもをやっつけた後、王子はそのまま歩いていく。

 工業地区のはずれであるこの一帯は、錆色の建物が廃墟のように立ち並んでいる。


 辺りは、人気もなく静まり返っている。

 しかし、王子を呼び出した犯人たちがどこかにいるはずだ。わたしたちは、見つからないように離れてついて行く。


 やがて王子が立ち止まった。


 セタ王子は、前方の広い路地にいる。

 王子の近くに隠れられるような場所がないため、わたしたちは離れた物陰でじっとしている。


「地図を見てる?」

「あのあたりだな、指定されたのは……だが……」


 セタ王子は、きょろきょろと周りを見て、手元を確認している。


挿絵(By みてみん)


「誰もいないのかしら?」


 セレーナが眉をひそめる。


「どうする?」


 わたしたちは、物陰に隠れたまま、ひそひそと話す。


「誰もいないんじゃ、どうしようもないよね?」

「しかし、まだ出ていくわけにはいかない」

「ええ。どこかで、監視しているかもしれないものね」


 セタ王子はどうしたらよいか困った様子だ。

 わたしたちは今はまだ見守るしかない。


「誰か来た!」


 建物と建物の隙間から、一人の男が現れた。

 男は王子に話しかける。


「犯人かな?」

「おそらく」


 王子は、男と何か話している。


「何を話しているのかしら……」


 わたしたちがやきもきしていると、男が歩き出す。

 セタ王子もその後に続いて、歩いていく。


「歩きはじめた!」


 男が路地を曲がる。

 王子もその後について路地を曲がる。


「いそげ!」


 わたしたちは物陰から飛び出して、急いで王子たちが曲がった路地まで走る。

 路地に入り、周りを見渡すと――


 いない。


 王子の姿も、男の姿も、どこにもなかった。


「しまった! やられた!」


 リーゼロッテが言う。


「やはり罠だったか……!」




   ◆




 王子たちの曲がった狭い路地の向こうは開けていて、同じような建物がたくさん並んでいた。


「何かの倉庫かしら」


 セレーナが言う。リーゼロッテがうなずく。


「どれも一緒だな」


 ふたりとも、切羽詰まった口調だ。

 わたしたちは王子の姿を見失った。

 王子までさらわれてしまったのだ。最悪の事態だった。


 わたしは、パニックを起こしそうになる。

 必至でこらえて、辺りを見回す。


 ずらっと倉庫が並んでいる。

 赤い屋根の同じような倉庫……赤い壁に、紫色のペンキで数字が振ってある。

 パッと見て、倉庫は12番まであった。


「くそっ、端から順に探していくしかないな……」


 リーゼロッテが言う。


「まって……そうだ! にゃあ介!」

「ミル?」


 セレーナが言いかける。


「うん、にゃあ介なら、きっと何か手がかりを残してくれてるはず!」


 ぬいぐるみのにゃあ介は、ゴロツキたちからだって王子を守ってくれた。


「ん? あの袋は……?」


 リーゼロッテが何か言ったが、耳に入らない。わたしは、


「にゃあ介なら、必ず。必ず……」


 わたしはぶつぶつ呟きながら、思い出す。

 いつだったか、セレーナがバシリスクの毒を受けたとき、にゃあ介に言われたことを。


「緊張しすぎると、視野が狭くなる……リラックス、リラックス」


 すると、少しだけ視野が広がったような気がした。


 倉庫の中に連れ込まれたんだとしたら、にゃあ介は何を残してくれるだろう?

 立ち並ぶ倉庫の、扉の周りを順に観察していく。1番、2番、3番……


「あそこ!」


 紫色のペンキで、8と描かれた建物。

 その倉庫の扉から、ちょっとだけ、何かが飛び出している。

 何か、扉に挟まっているのだ。


「にゃあ介のしっぽだ!」


 わたしは扉めがけて走る。


 扉から飛び出しているのは、やはりぬいぐるみのしっぽだ。

 少しだけ扉を開け、中に目を走らせる。


 薄暗い倉庫の中には、複数の男たちがいる。

 セタ王子は腕をつかまれ、動けない様子だ。


 わたしは、にゃあ介を拾い上げる。


「よかった……ありがと、にゃあ介」


「やれやれ、しっぽが綻んでしまったニャ」


 にゃあ介が小声で愚痴をいう。


「あとでリーゼロッテに縫い付けてもらってあげる……さて」


 ぬいぐるみを肩に乗せ、わたしは倉庫の扉をがらりと開ける。


「王子を返してもらいましょうか」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ