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第四百五十六話 失踪事件7

「すみません、本当に時間が無いんです」


 そう言って、王子は男たちの横を通り過ぎようとする。

 男の一人が言う。


「おっと、そうはいかないぜ、にーちゃん」


 もう一人が、


「これでも食らいな」


 そう言って、セタ王子に殴りかかる。


 男の拳は、セタ王子の顔面目掛けて繰り出される。


「わっ!」


 王子はそれを、身をひねってかわす。


「お?」


 男は体勢を崩し、


「よけやがった?」


 と、驚く。


「いいぞ、セタ王子!」


 わたしは手を叩く。

 セタ王子は、相手のパンチをよけたことに、自分でも驚いている。


「日頃の特訓の成果だね!」


 男はなおも殴りかかるが、王子はひらりとかわす。


「……ミオンさんやリーズさんたちの剣に比べれば、こんなの止まっているみたいだ」


「ちょこまかと」


 男たちが、いらいらした口調で言う。

 どう見てもひ弱な王子に、自慢のパンチをよけられて、不快そのものといった表情だ。


 セタ王子は言う。


「そちらこそ、おとなしくあきらめてください」

「ちっ」


 二人の男がまた殴りかかってくる。しかし、王子はそれもひらりひらりとかわした。


「貴方たちの拳は、ぼくには当たりません」


 男たちは、目を丸くする。

 どうやら、よけられたのは偶然じゃないと、ようやく理解したようだ。


 二人は、そっと目配せをかわす。


「へっへ、やるじゃねえか……わかったよ、とっとと行きな」


 男たちは、ひらひらと手の平をふる。


「ありがとうございます」


 セタ王子は、ぺこりと頭を下げて歩き出す。


「? やけにあっさり諦めたね」


 わたしが言うと、セレーナとリーゼロッテが、


「そうじゃないわ」

「汚いやつらだ」


 と、声をそろえて言う。


「え?」


 視線を路地の方へ戻す。


 歩き出したセタ王子の後ろへ、二人の男たちが近づいていく。

 王子に気づかれないよう、足音を立てないようにしている。


 さらに男たちは、路地に落ちていた棒切れを拾い上げ、それを構える。


「わ、ほんと汚い! セタ王子、危ない! 後ろ……!」


 だが、わたしの声は届かない。

 そっと近づいた男たちが、拾った棒切れを振りかぶる――まずい!


 次の瞬間、王子の肩から、にゃあ介のぬいぐるみが、ぽろりと地面に落ちる。


「あっ、ミオンさんのぬいぐるみが……」


 それを拾おうとした王子の身体が、すっと沈む。

 思い切り振り抜いた棒切れは、かがんだ王子の頭上を素通りし、男たちのお互いの頭へガツンと直撃する。


「……ナイス、にゃあ介!」


 わたしは、ガッツポーズをとる。


 男たちはそのまま、地面へぶっ倒れる。

 王子は、


「変だなあ……あんなに動いても落ちなかったのに」


 と、にゃあ介のぬいぐるみを拾い上げる。

 そして、ぬいぐるみを肩に乗せながら振り返り、ひっくり返っている男たちを見て、不思議そうに首を傾げるのだった。


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