第四百五十四話 失踪事件5
「わかった。王子がそこまで言うのなら」
リーゼロッテはそう言った。
「ただし、我々も少し離れてついていく。王子に何かあれば、すぐに救出できるように」
「でも、それが相手にばれたら……」
王子は反論しかけるが、リーゼロッテにさえぎられる。
「見つからないよう、注意する。これでも危険すぎるくらいだ……忘れるな、自分が王子であることを」
「……たしかに、僕は王子です。でも、チコリさんやビリーを危険にさらしてしまったのは、きっとそれが原因です」
セタ王子はつらそうに言う。
「そうだな。おそらく、向こうの狙いは初めから王子だ。だが、だからこそ、王子をこれ以上危険にさらすわけにはいかない」
リーゼロッテは断固として言う。
「我々もついていく。これはゆずれない」
「……わかりました」
「それから」
リーゼロッテは続ける。
「危険だと思ったら、逃げること。後のことは私たちに任せて、なりふり構わず逃げるんだ」
「チコリさんや、ビリー、それにリーゼロッテさんたちを見捨てて逃げろ、と?」
「そうだ。セタ王子までつかまったら、どうなる? この国の安全のためだ」
するとセタ王子は微笑む。
「わかりました。逃げます」
そう彼は言ったが、誰もがわかっていた。
――セタ王子は逃げない。
ふー、とため息をついて、リーゼロッテは、
「それじゃ、行こうか」
と、歩き出しかけ、
「……その前に」
リーゼロッテは言う。
「リーズ、自警団の詰め所へ行って来てくれないか」
「なぜ? 私もついて行くわ。王子の護衛を任されているのは、私よ」
リーズが憤慨する。
「セタ王子は我々が守る。それより、チコリとビリーを救出したあと、敵の一味を捕らえる準備をしておいてほしい」
リーゼロッテが言うが、リーズはまだしぶっている。
「たのむ」
「…………」
「お願いよ、リーズ」
セレーナも言うと、
「……わかったわ」
仕方なくうなずく。
それからリーズは、セタ王子に向き直り、言った。
「気をつけなさいよ」
◆
「さて、この先は、王子一人で行ってもらわなくてはならない」
リーゼロッテが言う。
ルミナスの郊外、これまであまり来たことがない、工業地区のさびれた一角にわたしたちは立っている。
指定された場所までは、まだ距離がある。
だが、どこかで相手が見張っているかもしれない。
このあたりから、わたしたちは身を隠した方がいい。
「わかりました」
王子はうなずく。
「それでは、行ってきます」
王子がそう言って歩き出そうとする。
「まって」
わたしは王子を呼び止める。
「これ、持って行って」
わたしが言うと、王子は首を傾げる。
「そういえば、ミオンさん、いつも持ってますけど……」
セタ王子は不思議そうに、
「何です? これ」
わたしは頭を掻きながら、セタ王子の肩に、にゃあ介のぬいぐるみを乗せる。
ちょん、と乗ったぬいぐるみは、王子の肩の上でじっとしている。
わたしは、ぽん、とぬいぐるいみの頭を叩き、言う。
「お守りみたいなもの」




