第四百五十一話 失踪事件2
「ビリーが行きそうなお店に心あたりはないか? よく行く雑貨屋とか」
リーゼロッテがチコリに訊く。
「ええと……」
チコリはしばらく考えてから言った。
「あたしは、あんまり話をしたことがないから……。でも、あの子なら知ってるかも」
「誰だ?」
「ビリーとよく話をしている、クラスメイトの女の子」
チコリは答える。
「名前は……たしか……、レティア」
◆
レティアの寮は、リーゼロッテやチコリ、リーズと同じ寮だった。
セタ王子を外で待たせ、わたしたちはレティアの部屋を訪ねた。
「レティア、いる?」
チコリは扉をノックしながら呼びかける。
すると、
「どなたですか」
部屋の中から声がした。
チコリが応える。
「あ、あのっ、あたしだけど」
「えっと、チコリ……?」
扉が開いて、レティアが出てくる。
レティアは、短い髪の女の子だった。背はわたしより少し低いくらい。ちょっと眠そうな目が特徴的だ。
「どうしたの?」
「うん。ちょっと話があって」
「突然ごめんなさい。ちょっとお邪魔してもいいかしら?」
「……せ、セレーナ先輩!?」
ドアから顔を出したセレーナを見て、驚くレティア。
「あら、わたしのこと知っているの?」
「は、はい! 有名人ですから!」
「有名人?」
「とっても強くて綺麗な方だって……このあいだのリーズとの模擬戦もすごかったです!」
「あ、そっか~。合同授業、わたしたちのクラスと一緒だったもんね」
わたしもひょいと顔を出す。
「み、ミオン先輩に…リーゼロッテ先輩も?」
「あ、わたしのことも知ってくれてるんだ。むふふ……ねえねえ、もしかしてわたしも有名人?」
「は、はい、おもしろい人だって」
わたしはガクッとずっこける。
レティアは、わたしとリーゼロッテ、セレーナ、リーズを部屋に入れてくれた。
部屋の中はきちんと片付いている。
わたしたちが丸テーブルのまわりを囲むように座ると、チコリがレティアに訊ねる。
「あのね……ビリーのことなんだけど……」
「……!」
レティアの顔が曇る。
「何か知らないかな? ビリー、急にいなくなっちゃったんだよね。あたしたち、ビリーを探してるの」
「そうなの……」
レティアはすまなそうに、
「あたし、なんにも知らないの」
とうつむく。
わたしたちはレティアに話を訊いた。
レティアとビリーは、学校ではいつも一緒にいるのだが、学校の外で行動を共にしたことはないらしい。
「ビリーは、体があんまり丈夫じゃなくて、学校が終わるとすぐ寮に帰っちゃうの」
なので、お互いの行きつけの店やよく行く場所などは全然知らないという。
「ごめんなさい。協力できたらよかったんだけど……」
「あ、いいの! いいのよ」
チコリはあわてて手を振る。
「……ビリーは、あたしがこの学校に来てはじめにできた友達なの」
レティアがうつむき呟く。
そんなレティアを見て、セレーナが優しく訊ねる。
「レティアも、ビリーを最後に見たのは、おとといの授業が終わったとき?」
レティアは黙ってうなずく。
「ビリーに、何か変わった様子はなかっただろうか?」
と、リーゼロッテが訊ねる。
レティアは首を振る。
「いつも通りだった。……と思う。授業後、ちょっとだけ会話を交わしたわ」
「どんな?」
わたしたちは身を乗り出す。
「たわいもないこと。『また明日』って」
◆
外で待っていたセタ王子に、収穫なしと伝えると、
「そうですか……残念ですね」
そうセタ王子は言った。
「とりあえず、今日は解散ね」
リーズが言った。
「セタ王子を寮に送らないと、あのお付きがうるさいから」
わたしは言う。
「うーん……。わかったのは、おととい、授業が終わってから寮に帰るまでの間に、ビリーに何かあったってことだけだね」
「うむ。それから」
とリーゼロッテ。
「ビリーの失踪は、やはり自分の意思ではないようだな」
リーゼロッテは、こうつぶやいた。
「レティアが聞いた彼の最後の言葉は、『また明日』だ」
◆
翌日も、ビリーは学校に来なかった。
いよいよ騒ぎは大きくなってきて、ルミナス自警団も本格的に捜査に乗り出したらしい。
わたしたちも、本腰を入れて、ビリー探しに取り組む。しかし……、
「今日も成果なしか……」
日暮れまで探しても、手がかりは得られなかった。
「うーん。はやく見つけないと、ビリーの身が心配だよ」
わたしは言う。
「そうね。自警団が、ビリーの手がかりを見つけてくれていればいいんだけど」
セレーナが答える。
「とにかく、今日は帰ろう。また明日だ」
仕方なく、わたしたちは帰途につく。
「心配だなあ……ほんと」
ベッドに横になり、天井を見上げる。
「ビリーって子、今ごろ、何しているんだろう?」
(まあ、今心配しても仕方ニャい。とりあえず、寝ろ)
にゃあ介はそう言うが、わたしはなんだか胸騒ぎがして、なかなか寝付けなかった。
◆
翌日、事件に進展があった。
第二の失踪事件が発生したのである。
しかも、あろうことか、失踪したのは――




