第四百五十話 失踪事件1
「失踪?!」
「うん……」
チコリは言う。
「おとといまではね、ちゃんと学校に来てたの」
「それが、突然いなくなったの?」
わたしは訊く。
「そう。おとといの授業後、寮に帰ってこなくて」
チコリは、サンドイッチのお皿に目を落とす。
「翌日も学校を休んだから、部屋まで確かめに行ったら……」
「部屋のベッドに、姿がなかったんだね」
わたしは先回りする。
チコリはうなずいた。
「そうらしいの。で、今日もその子、来てなかった。……ね?」
チコリが言うと、リーズが答える。
「ええ。何事もなければいいんだけど」
「……心配ですね」
と、セタ王子。
「三人は、話したことあるの? その子と」
わたしが訊くと、チコリは、
「挨拶くらいしか……だけどね、いい子だったよ。いつも授業を真面目に受けていて」
「うーん……」
わたしは腕を組む。
「どう思う? にゃあ介」
(失踪事件とは穏やかでないニャ)
にゃあ介が応える。
(もしその生徒の身に何かあったのだとしたら、姿が見えなくなってからすでに二日も経っている。憂慮すべきではあるニャ)
リーゼロッテは口元へ手をやって、考えている。
「二日も経っているのか。心配だな……」
と、にゃあ介と同じ感想を述べる。
「そうね」
セレーナもうなずく。
「捜査は始まっているの?」
するとリーズが、
「ルミナスの自警団が探しているらしいわ」
と答える。
今度はリーゼロッテが訊ねる。
「チコリがその子の姿を最後に見たのは、いつだ?」
「えっとね、午後の授業を終えて、帰り支度をしているときだったわ。そのときには元気そうだったけど……」
「その子の名前は?」
「ビリーっていう男の子。おとなしくて、背が低いの。あたしと同じくらいかも」
「ふむ。自警団が動いているのなら、任せた方がいいかもしれないが……どうする? ミオン」
わたしは、大きくうなずき、胸を張って答える。
「もちろん! わたしたちもビリーを探そう!」
◆
授業後、わたしたちは、校内の捜索を開始した。
まずチコリが目撃した、その生徒が最後にいた場所へ向かう。
「ここがビリーがいつも座る席。廊下側の一番後ろ」
チコリは言う。
「あたしの席はあっち。帰り支度をするビリーが目に入るわ」
「ねえ」
わたしは訊ねる。
「その子ってどんな子なの?」
「うーん……」
チコリは思い出すように言う。
「背はあたしと同じくらい。髪は薄い茶色で、癖っ毛。なんとなく頼りない感じ……」
わたしはうなずく。
「そっか」
わたしはビリーの席を見つめ、その姿を想像する。
薄い髪色で、憎めない笑顔の、小柄な男の子……。
わたしは心からの言葉を発する。
「早く見つけてあげたいね」




