第四百四十二話 第四回合同授業
メリルの家を出ると、もう夕暮れどきだった。
「こんなことになるなんて……」
セレーナが言う。
「まさか、魔族の血を引いてたなんてね」
わたしはつぶやく。
チコリが言う。
「あぶなかったね、セタ王子」
セタ王子は、考え込むように黙っているが、やがて、
「……ええ」
とうなずく。
「僕が王族だから、みなさんに迷惑をおかけしてしまったようです。申し訳ありません」
「そんなことないよ」
わたしは言う。
「ああ、迷惑だなどとは、誰も思っていないぞ」
リーゼロッテがうなずくと、セタ王子の顔も少し明るくなる。
「ありがとうございます。リーズさんも、巻き込んでしまってすみません」
すると今まで黙っていたリーズは、
「……謝らなければいけないのは私のほうよ」
と、言った。
「王子に不穏分子がこんなに近づいているのに、それに気付けなかったなんて。……護衛役失格だわ」
「リーズさん」
と、セタ王子は言う。
「そんなことありません。僕が無事だったのも、リーズさんのおかげです」
チコリが同意する。
「うん。リーズの作ったお菓子、すっごくおいしかったよ。ね、みんな?」
「ええ、今まで食べたお菓子の中でも一番新鮮で美味しかったわ」
「ああ。特にベリー風味のアイスが良かった」
「わたしはドミンゴ味とグレープ味と……うーん全部!」
皆が口々に言うと、リーズの顔が、ほんの少しだけほころんだ。
「……本来の護衛の役割じゃないんだけど」
「いいんじゃない? たまにはこういうのも」
わたしは言う。
「お菓子作りは楽しかったし……何といってもすっごく美味しかったもんね!」
そこでわたしはふと思い出して訊ねる。
「にゃあ介、いやに静かだね?」
すると、にゃあ介はつまらなそうに、こう言った。
(……ネコは甘味を感じないニャ)
◆
お菓子作り対決からしばらくは、平和な日々が続いた。
メリルたちとの一件が広まったのも理由の一つだろう、セタ王子に取り入ろうと近づいてくる輩は減っていた。
相変わらずセタ王子は、リーズとチコリに軽く扱われているが、本人はなんだかうれしそうだ。
わたしたちは、そんな後輩たちと共に、魔法学校の日々を過ごすのだった。
そんな中、第四回合同授業の日がやってきた。
◆
「みなさん、次は合同授業ですが、今回の授業は外で行います。移動してください」
事務のエイサさんが、教室の扉から顔だけをのぞかせ、そう言った。
「外だって」
「何かしら?」
「ふむ……今回も校庭で授業を行うのか」
前回の、白魔法×黒魔法の授業の時も、校庭での授業だった。
エスノザ先生とヒネック先生が、補助魔法を実演して見せてくれたのだ。
今回も、また魔法の実演なんかを行うのだろうか。
窓の外を見ると、天気は晴れ。青く澄み渡った空が広がっている。
「わかんないけど、行こう。いい天気だよ!」
室内で座学ばかりしていると身体がなまるし、やっぱり外の空気を吸うのは気持ちがいい。
わたしは率先して、教室を飛び出していく。
校庭へ出ると、すでに他の生徒たちが集まっている。
「ん? なんか見慣れない顔が多いな……」
わたしが首を傾げると、セレーナが言う。
「学年が違うわね」
「えっ」
たしかに、先に校庭へ出ていた生徒たちの顔は、どこか初々しい感じがする。
合同授業は、学年を問わず行う授業だと、最初に説明があった。
「……じゃあひょっとして」
わたしはきょろきょろと校庭を見回す。
「あっ!」
わたしは思わず声を上げる。
校庭の向こうの方。
ぶんぶんと手を振りながら、こちらへ駆けてくる三人組の姿があった。




