第四百四十一話 お菓子作り対決、決着
「おいしい!」
「うん、おいしい」
すごい勢いで、皿のロールアイスがなくなっていく。
「こんなおいしいお菓子、食べたことがないわ」
あっという間にロールアイスの皿は空になった。
「いやあ、素晴らしかったですな!」
「こんなの、生まれて初めて食べました」
皆、食べ終わって、 ホォ~……と満足気なため息を吐く。
一方、メリルのお菓子はといえば、まだ大半が皿に残っている。
誰が見ても勝敗は明らかだった。
「ふむ。メリルのお菓子も美味しかったが、今回ばかりは相手が悪かったようですな」
メリルの父が言う。
皆、黙っている。異論なし、という意思表示だ。
メリル本人まで、負けを認めたかのように、うつむいている。
「さて、では今回の勝負は……」
「メリルの勝ちよ!」
大声で叫んだのは、金髪の少女、コニーだった。
「おいしかったのは、メリルのお菓子よ!」
コニーはヒステリックにまくしたてる。
「そうだわ、メリルよ。メリルの方がおいしかった! まちがいないわ」
皆が、怪訝な顔でコニーを見つめる。
「コニー、それは無理がある……」
「何よ!? メリルのほうがおいしかった。そうでしょう、ライエット!?」
バン! と、音を立ててテーブルを叩き、コニーは立ち上がる。
ガシャン。
「きゃっ」
メリルが驚いて、びくっと肩を震わせる。
よっぽど強く叩いたのか、その拍子にテーブルの上の皿が割れたのだ。
「お皿が……」
コニーの興奮は収まらない。割れた皿の上に手を置いたまま、叫ぶ。
「絶対にメリルの勝ちよ! だからセタ王子は私たちの……」
「こ、コニー、その手……」
ライエットが言う。
皆の視線が、コニーの手に集まる。
コニーの手の平から、血が一筋流れ出ていた。
誰かがつぶやく。
「青い血……」
コニーの血は、たしかに青かった。
一同がシーンと静まる。
「血が青い……あなた」
セレーナが言うと、続きを引き取ってリーゼロッテが訊ねる。
「混血なのか?」
「そんなこと……」
コニーは否定しようとする。
「ちがうのか?」
リーゼロッテが言うと、コニーはリーゼロッテから目をそらす。
わたしは、ハッと思い出す。
混血……魔族と人間の混血。たしか、血の色がふつうと違うんだった。
「それがなによ!?」
コニーは、開き直ってリーゼロッテに食ってかかる。
「誇り高き魔族の血を引く、私の家系を侮辱すると許さないから!」
「なるほど」
リーゼロッテがうなずく。
「通りで、セタ王子に執着するわけだ」
リーゼロッテは言う。
「王子に取り入るようにと言われたのは、誰の命なんだ?」
「…………!」
コニーは黙り込む。
リーゼロッテは話す。
「最近、魔族の動きが活発になっているということだが……」
リーゼロッテは続ける。
「魔族なら、王子と知り合いになるチャンスを欲しいと思うだろうな」
彼女は一歩前へ出て、
「王族とつながりを持ち、内部情報を掴めば、王都への侵攻がやりやすくなるからだ」
眼鏡をずり上げ、腕を組む。
「君は、そのために王子に近づいた。それで間違いないな?」
コニーを見ると、彼女は顔をそらさずリーゼロッテを見ている。
ただ、その身体は、ぷるぷると震えていた。




