第四百四十話 お菓子作り対決4
食卓へ向かうと、メリルの両親も席についていた。
メリルの父と母が言う。
「セタ王子、我が家においでいただいて誠に光栄ですぞ」
「本当に。王族の方と食卓をご一緒できるなんて、夢にも思いませんでしたわ」
「いえ、こちらこそお招きいただき、ありがとうございます」
セタ王子は、こういう場には慣れているのか、さらりとそう返す。
そんなことより、対決の行方がどうなるか、気もそぞろ、といった感じだ。
メリルの両親は、うれしくてたまらない、といった様子で終始にこにこ笑っている。
「今日は、うちのメリルとお友だちが、お菓子作り対決をするんですってね。ぜひ、応援させてもらいます」
◆
「それじゃあ実食ね」
既に勝ち誇ったような顔で、メリルが言う。
「これが私の作ったお菓子。メリル特製、スペシャル・リゾールよ」
メリルは、完成したお菓子の皿を持って、皆の前に置く。
メリルの作ったお菓子は、パイ生地を使った焼き菓子だった。
見た目は、アップルパイに似ている。
「へえ~、おいしそうだね」
わたしが言うと、
「スペシャルな材料を使ったお菓子よ」
メリルは得意げに説明する。
「生地も美味しいけれど、最高なのは中身よ。甘いプルームの実を紅茶で煮たの。私くらいになると、こんな発想が出てきちゃうのよね」
コニーとライエットが手を叩く。
「さすがメリル。天才だわ! あなたたち、こんなおいしいものが食べられて、幸せね」
「ほっぺが落ちて、顎が外れて、目玉が飛び出すにちがいないわ」
わたしは早速、ひとつ取って口に頬張る。
「うん、おいしい!」
「さあ、セタさまも。どうぞお召し上がりになって」
セタ王子は、おそるおそるお菓子を取って口へ運ぶ。
「おいしいですね……」
メリルは満足そうに言う。
「はっきり言って、比べるまでもないと思うわ。……この勝負、もう私の勝ちでいいわね?」
「まちなさい」
リーズがきっぱりと言う。
「それは私の作ったお菓子を食べてからにしてもらいましょう」
メリルは、やれやれ、といった風にため息を吐く。
「好きにしなさい。恥をかくだけよ」
リーズは立ち上がり、キッチンへ向かう。
その後ろ姿を、セタ王子は両手を握り合わせて見つめている。
戻ってきたリーズの手には、脚付きの透明な深いグラスのようなお皿。
そこに盛られたロールアイスを見た一同は、ざわめく。
「まあ、きれい……!」
「まるで器に虹が盛られているようですな!」
メリルの両親が、感嘆の声をあげる。
お皿には、色とりどりのロールアイスが何本も入っている。青にピンクに黄色、緑や赤まで。
くるくると巻かれたロールアイスの上には、ホイップクリームかけられ、ビスケットが添えられている。
リーズは、お皿をテーブルに置く。
「これが私の作ったお菓子よ」
メリルたちは、皿の中の物を凝視する。
「何かしらこれ」
「見たことのない物だわ」
「巻き物みたいに見えるけど……」
リーズが言う。
「お菓子は見た目も大事な要素。だから、見た目にもこだわったわ」
「ふん! 見た目でインパクトを与えようってわけ?」
「珍妙な見た目だからって、勝負には関係ないわ。問題は味よ」
「こんな物で私のリゾールに勝てると思ってるのかしら」
メリルたちはフォークを手に、ロールアイスを口へ運ぶ。
「ひゃっ!?」
三人の動きがぴたり、と止まる。
「!? こ、これは……」
「なにこれ……冷たい!?」
「口の中でとける……!」
三人は驚いて口々に言う。
メリルの両親は、
「これは……ドミンゴの味!」
「甘くてとっても爽やかですわ!」
と上機嫌な様子で、次々と食べ進めている。
「これはベリーですな!」
「甘酸っぱい味と香りがたまらないわ!」
わたしもひと口アイスを食べてみる。
「うん。ミルクと砕いたフルーツの風味がマッチして、すごくおいしい!」
見た目、味、高級感……どれをとっても絶品といっていいだろう。
伝授した、わたし自身も、このロールアイスの風味豊かな味に唸る。
誰もがロールアイスの味とその食べたことのない食感に圧倒され、気づけばみな夢中で口へ運んでいた。




