第四百三十七話 お菓子作り対決1
そんなこんなで、リーズはメリルたちとお菓子作り対決を行うことになった。……セタ王子を賭けて。
授業後、アルトリーチェ寮の厨房に皆で集まり、リーズのお菓子作りの特訓を見守っている。
「ところでリーズ、お菓子作れるの?」
わたしが訊ねると、リーズは言った。
「作ったことはないわ。でも簡単でしょう? お菓子作りなんて」
「ええっ!」
はたで聞いていたセタ王子が驚く。
「だ、だいじょうぶなんですか、リーズさん……」
「ま、なんとかなるでしょ。万が一、負けたところで、あなたをとられるだけだし」
「そ、そんなぁ……」
「冗談よ。とりあえず作ってみるから黙って見てなさい」
「はあ……」
◆
「やれやれ」
リーズが慣れない手つきでボウルにクリームを流し入れるのを見ながら、わたしは言う。
あのあと話し合って、勝負は一対一で行うと決まった。
つまり、メリル対リーズ。各々、一人でお菓子を作って、美味しかった方の勝ち、ということだ。
「一週間で、リーズはお菓子作りをマスターしなきゃならないのか」
「できるかしら?」
「無理かもしれないけど……ま、やるだけやってみるしかないね」
わたしが言うと、セタ王子がうらめしそうな目でこちらを見る。
「ところで不思議なんだが」
リーゼロッテが言う。
「メリルたちは、なぜああもセタ王子に執着するのだろう?」
「それは、セタ王子は王族だもの。王族とのつながりを持つことは貴族にとっては大きなことだわ」
「二人ともわかってないなあ。そんなの王子と恋仲になりたいからに決まってるじゃん!」
「そうなの?」
「そうなのか?」
わたしは、はぁ~とため息をつく。
「二人とも、恋愛の話になるとてんで鈍感なんだから……」
リーゼロッテは首を傾げ、
「うむ……しかし何だか腑に落ちないな……」
◆
数分後、リーズは手に持っていた泡立て器を投げ出し、言った。
「無理!」
リーズは、顔中クリームまみれになりながら、
「なんなのよこれ。おとなしくボウルの中に留まっている気はないの?」
と生クリームに向かって悪態をついている。
「リーズ、力を入れすぎだよ。もっと、コンパクトに混ぜないと」
わたしがアドバイスすると、
「なんなのよ! じゃあ、あなたがやりなさいよ!」
と逆ギレされる。
「リーズさん……」
セタ王子の顔色は青い。
「どうするんですか。ぼ、僕はいったいどうなるんです」
「うるさいわね。ちょっと黙ってて」
「しょうがないわね……。どうやら私の出番みたいね」
と言い出したのは、セレーナだった。
ぎくり、と一同が固まる。
「アイデアはあるわ。このまえ、お肉を使ったケーキを作ったじゃない?」
セレーナはにこにこしながら言う。
「こんどはお魚を使うのよ! クリームの甘さと、お魚の風味が合わさって、きっとおいしくなるわ」
セレーナが腕まくりをしながら、キッチンに向かう。
「せ、セレーナちょっと待って」
「セレーナさま、あの……」
「落ち着けセレーナ」
ここは皆、全力で止めに入る。
「あら、なあぜ?」
不思議そうなセレーナ。
こうなったら仕方ない。
わたしは言う。
「セレーナが腕をふるうまでもないよ。……ここはわたしに任せて」