第四百三十六話 権利
「四の五の言わずに、おとなしく待っていればいいのよ!」
メリルは憤慨して言う。
「お菓子はこれから、私たちみんなで作るの」
とコニー。
「おいしくてほっぺたが落ちちゃうんだから!」
ライエットが腰に手を当てて、顎を突き出す。
「なんですって?」
リーズが呆れる。
「まだお菓子も用意できてないっていうの?」
やれやれ、とソファに腰を下ろすリーズ。
「……やっぱりなってないわ。主催者失格ね」
そして言う。
「セレーナの家のお茶会じゃ、ゲストを待たせるなんてことは、一度だってなかったわ」
リーズは、セレーナに話しかける。
「ね、セレーナ。セレーナのお茶会で出されるお茶とケーキは、超がいくつもつくほどおいしかったわ。私忘れたことないもの」
少女たちは、
「なんなのよ! さっきからあなた!」
と、怒り出す。
「私たちのお菓子は、買い置きのお菓子とはわけが違うの」
「私たちが手作りしたお菓子が食べられるなんて、名誉なことよ?!」
「そうよ。私たち、有名なお菓子職人に、作り方を習っているんですからね!」
そして、
「もちろん、材料は、最高の物を取り寄せているわ」
こう自慢する。
「星々の加護を受けたアスター牛のミルク!」
「南国の希少な植物から採れる最高の砂糖!」
「魔法の塩と言われるシエラソルトだって揃えているんだから!」
三人は、
「ま、期待して待ってなさい」
そう言い残すと、キッチンへ消えていく。
リーズは、それを見送りながら、
「ふん」
とつぶやく。
「リーズさん……できれば、穏便に」
そう言いかけたセタ王子は、リーズにギロリとにらまれ、黙り込む。
「やれやれ……」
わたしは言う。
「でも、いい材料使ってるみたいだし、楽しみだね!」
◆
やがて、三人はトレイを持って戻ってくる。
「おまちどうさま。これが、私たち自慢の自家製エショッドよ」
差し出されたトレイの上には、焼き立てのお菓子が乗っている。
「わー、クッキーみたいだね!」
焼き菓子の甘く香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
「さあ、召し上がれ。きっとお気に召すと……」
メリルが言いかけたところで、リーズはさっさとそのお菓子を取って口に放り込む。
メリルは憤慨しながらも、
「セタさま、どうぞ」
エショッドを勧める。
「いかがかしら? そんじょそこらのお菓子とは、違うと思うけれど?」
三人は自信満々に言う。
リーズはこう答える。
「ふつうね」
すると、メリルたちは顔を真っ赤にして怒り出す。
「失礼な!」
リーズは涼しい顔で、
「これくらいのお菓子、どこにでもあるわ。ねえ、みんな」
と同意を求める。
皆、返答に困っているようだ。
「おいひー……ん?」
口いっぱいにエショッドを頬張ったわたしは、
「もぐもぐ」
としか答えられない。
メリルたちはリーズに向かって言う。
「まあ、あなたなんかには分からないでしょうけどね」
「あなたには、出来合いの安いパンくらいがお似合いなのよ」
「あなたみたいな、がさつな女に、私たちの上品なお菓子の味が、分かるわけないもの」
カッチーン!
またリーズの頭の中の音が聞こえる気がする。
「見くびってもらったら、困るわ」
リーズは立ち上がって、
「お菓子がおいしいかどうかくらい、わかる。あなたたちの腕は、はっきり言って、未熟よ」
「なんですって!」
メリルたちが激昂する。
「ちょっと、リーズさん!」
セタ王子が止めに入る。しかし、時すでに遅し。
リーズはきっぱりと言う。
「私はね、あなたたちが作るお菓子よりおいしいお菓子を、いくらでも知っているの。こんなの、私でも作れるわ」
メリルは、こう叫ぶ。
「あなたなんかにお菓子が作れるはずないわ!」
「何をやらせたって、私が負けるはずない」
リーズは鼻息荒く言う。
「お菓子だって、あなたたちのようなニセ貴族より、私の方がおいしく作れるに決まってるでしょう?」
「まあ!!」
「言ったわね!」
火に油を注いだように、メリルたちは、さらにヒートアップする。
「やれるもんならやってみなさいよ!」
「私たちと勝負なさい」
「あ、あのぅ……ど、どちらも落ち着いて」
セタ王子は冷や汗をかきながら、はらはらと両者を見比べている。
「こうなったら」
金髪の少女――コニーが、こう宣言した。
「お菓子作で対決よ!……セタ王子を賭けて!」
「え、ええっ」
セタ王子はショックで背筋がピーンと伸びている。
長身の少女、ライエットが言う。
「そうよ! セタ王子争奪、お菓子作り対決だわ!」
メリルが頷く。
「そうだわ、そうしましょう! 勝った方がセタ王子を得る権利を持つの!」
「そ、そそ、そんな」
(王子自身が、いろいろな権利を奪われているように見えるニャ……)
にゃあ介の哀れみの声が聞こえる。
「勝負は一週間後。この家のキッチンで対決よ!」
リーズは不敵な笑みを浮かべ、答える。
「望むところだわ。そっちこそ後でほえ面かかないでね」
セレーナとリーゼロッテは顔を見合わせる。
チコリは困ったように首を傾げる。
わたしは言う。
「じゃ、じゃーわたしも作る!」
(だから、なんでそうニャる)