第四百三十五話 メリルの家
と、いうわけで……。
わたしたち六人は、メリル家のお茶会に、お呼ばれすることになったのだった。
当日、メリルの実家には、馬車で行くことになった。
メリルは、皆と同じようにルミナスの寮で生活をしているが、実家はそう遠くないということだった。
「楽しみだなあ」
わたしがそう呟くと、隣に座っているセレーナが反応した。
「そんなに楽しみなの?」
「決まってるでしょ! だって、貴族のお茶会だよ!」
わたしはわくわくしながら答える。
「お茶会なんて退屈なものよ。あんなの、貴族同士のうわべだけの付き合いごとよ」
セレーナはつまらなそうに言う。
「セレーナは当事者だからわかんないんだよ。貴族のお茶会っていうのは、全女子の憧れなの!」
「そんなものかしら?」
「そんなものなのです! セレブ気分で優雅なひとときを満喫できるなんて……オホホ!」
わたしは手の甲を口元に当てながら言う。
「貴族のお菓子かぁ~。セレーナの実家で頂いたケーキも相当おいしかったけれど、今日はどんなお菓子にご相伴あずかれるのか……楽しみでたまんないね!」
「うむ」
リーゼロッテが同意する。
「たしかにあれは絶品だったな」
馬車は、通りを進んでいく。
チコリとリーズは、
「セタ王子、髪の毛がはねてるよ」
「ちゃんとしなさい。お茶会の主役なんだから」
と、セタ王子を叱っている。
「すすす、すいません」
王子は頭を撫でつけながら、言う。それから、
「みなさん、今日はどうか、仲良くしてくださいね……」
自分が原因で、皆が揉めているのが、心苦しいのだろう。
「さあ、どうかしらね」
リーズが答える。王子は心配そうだ。
そんなやりとりをしているうちに、馬車はメリル家のお屋敷に到着した。
「大きいお家だね! メリルって子、本当に貴族だったんだね」
わたしが感心すると、リーズは言った。
「セレーナの家に比べれば、こんなの犬小屋ね」
それを聞いて、セタ王子は、
「先が思いやられますね……」
と、うなだれた。
◆
「うれしいわ。来てくださったのね!」
屋敷の中へ通されると、応接間でメリルと、その友達二人が待ち構えていた。
「ううん、わたしこそありがと! ええと……メリルに、コニー、ライエット」
あの後、他の二人の名前も聞いて覚えた。長身で三つ編みの子がライエット、中くらいの背丈で金髪の子が、コニーだ。
「あんたに言ってないわ。セタ王子に言ったのよ」
メリルたちは顔をしかめる。それからメリルがセタ王子に向かって、言う。
「王子が来て下さると知って、両親も待ちかねてましたわ。でも、あまり干渉しないようにいってあるわ。気楽になさって」
「は、はあ……」
メリルは改めてお辞儀をして、言う。
「本日は私たちのお茶会へようこそおいでくださいました。どうぞゆっくりとお楽しみください」
そのスカートをつまむ仕草を、真似したくてたまらなくなったわたしは、
「このたびは、お茶会にお招き頂き光栄の至りですわ。オホホ。ゆっくりと楽しませていただきます。オホホ」
「あんたに言ってないんだってば!」
メリルはイライラした様子だ。
リーズは両腕を組んだまま、
「いいから、はやく私たちゲストに着席をすすめなさい。常識でしょ」
と、言う。
「それから、さっさとお茶とお菓子を用意する。なってないわね」
メリルたちは、ギロリとリーズをにらむ。
「なんなのよ、あんた!」
「あなたこそ、私たち貴族に対する口の利き方が、なってないわ!」
「お茶会の作法を教えてあげてるのよ」
リーズは涼しい顔で言う。
「……さあ、どんな代物が出てくるのかしら。王子の口に合うようなものが出てくるとは思えないけれど」
セタ王子は、やっぱりおろおろしている。