第四百三十二話 魔法補助
ヒネック先生とエスノザ先生が見せてくれた魔法補助。
二人一組となって、黒魔法の威力を白魔法で高めるものだ。
わたしたちは授業後、いつもの練習場で、その練習に取り組んでいた。
「リーゼロッテ、動かないでね」
わたしは、広場の中央に立つリーゼロッテに言う。
「魔法補助魔法をかけるから、成功したら、炎の魔法を使って」
「ミオンもはじめての魔法だろう? 実験台になる気分だな……」
リーゼロッテが言う。
わたしは、
「安心して。一発で成功させちゃうから!」
リーゼロッテの背に両手の平を向ける。
「来たれ! 聖なる力……!」
そう唱える。しかし。
しーん……
練習場に静寂が流れる。
見守っているセレーナたち、四人は、怪訝そうな表情でこちらを見る。
「……失敗か?」
リーゼロッテが振り返る。
わたしは額に汗を浮かべる。
「おかしいな……」
「治癒魔法の発展版、ということだったな。傷を回復させることはできるのだから……」
「その応用ね。むずかしいの?」
セレーナが、こちらへ寄ってくる。
「うん……ちょっとコツがつかめない」
「そうだな……いつもミオンが言う通り、イメージが大事なんじゃないか?」
「うーん……。自分の魔力が移動して、相手の中に流れ込むイメージ……って感じでやってるんだけど」
「ふたりの魔力の相性が悪いのかしら?」
「わたしとリーゼロッテは相性いいし!」
(だから、それはどこからくる自信ニャ……)
リーゼロッテは少し思案すると、
「相性……か。セレーナ、魔法剣を使うときはどんな感じでやっている?」
その質問に、わたしは、
「魔法剣? どうして?」
と訊ねる。
「魔法剣も、剣と使用者の相性が良くないと使えない。この魔法と似ていると思ってな」
「そうか。さすがリーゼロッテ」
「そうね……なんて言えばいいのかしら……。剣に魔力を流し込むというよりも、エリクシオンが私の身体の一部のように、一心同体のように感じているわ」
「なるほど」
とうなずいて、わたしはイメージする。
「リーゼロッテはわたしの一部……わたしはリーゼロッテの一部……わたしとリーゼロッテは一心同体!」
にゃあ介が言う。
(それから、ついでに、詠唱もやった方がいいのではニャいか?)
「あ、そっか」
みんなの意見を聞いて、納得する。
「うん、もう一回やってみる!」
セレーナは皆の元へ戻り、リーゼロッテがもう一度前を向く。
一旦、こほん、と咳をして仕切り直し、
「いくよ……」
わたしは腕まくりして、再びリーゼロッテの背へ手を伸ばす。
わたしたちは一心同体……。
深くイメージして、
「我求めん……」
そして唱える。
「汝らの霊魂を以って我が業我が有てる力この者に得せしむるべし……」
刹那、わたしの両手が白く光り始めた。
◆
「!」
離れて見ているセレーナたちが、息を呑むのがわかる。
わたしに背を向けているリーゼロッテが言う。
「これは……!!」
リーゼロッテは、驚いたように、
「巨大な何かが流れ込んでくる……!」
と言って、「ぐっ」とうめく。
「リーゼロッテ、拒絶しないで!」
わたしはリーゼロッテに呼びかける。
セレーナが言う。
「ミオンの魔力を受け入れるのよ!」
リーゼロッテは、踏ん張って力を入れていた身体から、力を抜く。
肩で息をしていたのが、だんだん落ち着いていく。
「流れ込んでくる……巨大で、荒々しくて、……暖かい」
そうつぶやく。
「これがミオンの魔力か……!」
わたしは言う。
「……リーゼロッテ、魔法を!」
「あ、ああ」
リーゼロッテは両手を前へ伸ばし、手の平をクロスするようにして、唱える。
「炎よ……!」
わたしは、リーゼロッテの背中へ向けている両手に、魔力を込める。
手からは白い光が、リーゼロッテへ向けて放射されている。
リーゼロッテの炎は、通常、非常に小さい。
本人が気にしているほど、彼女の魔力は弱いのだ。
だが、今このとき、彼女の前に出現しているのは……
バスケットボール大もある、火の玉だった。
「うわ!」
リーゼロッテは自分で驚いて、体勢を崩す。
「やめちゃだめ。リーゼロッテ。放って!――それ」
リーゼロッテは体勢を立て直す。
前方にある木の幹に向かって、彼女はその火の玉を放った。
ゴオォォォッ!!
熱波を巻き上げながら、火弾が飛んでゆく。
皆、その迫力に圧倒され、みとれる。
そして、着弾。
ものの見事に、木は、根元から消し飛んだ。




