第四百二十九話 白魔法×黒魔法1
「「さて」」
同時に話しはじめてしまい、エスノザ先生とヒネック先生、ふたりの間に微妙な空気が流れる。
「こほん」
エスノザ先生が、改めて話しはじめる。
「まずはじめに……白魔法には、癒しや、補助の力があるとされています」
皆へ説明するように、ゆっくりとした口調で話す。
「中には、『聖なる刃』のような、攻撃用の魔法もありますが、基本的にはそれが白魔法の役目なのです」
エスノザ先生が、
「いっぽう、黒魔法は……」
と続けようとすると、
「黒魔法は、むろん相手に危害を加えるための魔法だ」
そうヒネック先生が割って入る。
「黒魔法は、単純に使用しただけでも、非常に有効だ。補助などと悠長なことを抜かす白魔法とは、根本的に違う」
ヒネック先生は言う。
「しかし、さらに頭を使って……」
とんとん、とこめかみを叩き、
「敵の弱点を突けば、壊滅的なダメージを与えることができる」
ヒネック先生はにやり、と笑う。
「黒魔術の真の威力は底知れぬ。ときに、相手を死に至らしめることすら、もちろん可能となる」
これにはさすがにエスノザ先生が割って入る。
「おいヒネック、不適切だぞ」
ヒネック先生はムッとした様子で、
「べつに、推奨している訳ではない」
と言う。
わたしは、はらはらと二人の授業を見守り続ける。
「もー、ふたりとも本当は仲がいいはずなのに……」
(あの様子を見ると、とてもそうは思えないがニャ)
「ええ……この二つの魔法を、どう組み合わせるか、というと」
「四の五の説明するのは、面倒くさい」
ヒネック先生が言う。
その言葉に、エスノザ先生はうなずく。
「実演して見せましょう」
◆
「……準備はいいか、エスノザ」
「ああ、オーケーだ」
生徒たちが見守る中、すこし離れた場所に、エスノザ先生とヒネック先生がいる。
校庭の中央には、土嚢が山のように積まれている。
この土嚢は、授業開始前に積まれていたものだ。
土嚢に正対して、ヒネック先生が立つ。
先生から土嚢までの距離は十メートルくらいか。
「はじめましょう」
エスノザ先生はそう言って、ヒネック先生の後ろに立つ。
「よし」
とヒネック先生が言う。
「ここから、あの土嚢の山を黒魔法によって攻撃する」
エスノザ先生も言う。
「私は、白魔法の力でそれを補助します。見ていてください」
なんか、すごいことが起こりそうな予感がする。
わたしは興奮してくる。
……一瞬たりとも目を離せないぞ。
「みなさん、決して近づかないように。いいですか、いきますよ」