表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/601

第四十二話 魔法学校の図書室※挿絵あり

「魔法とは、契約の履行です。わたしたちと、精霊あるいは悪魔との契約」


 今日のショウグリフ先生の魔法学総合の授業は、魔法とは何かについて、深く掘り下げたものだった。

 魔法マニアのわたしとしては非常に興味を惹かれる内容だ。


「一度契約が済めば、理論的には誰もがその魔法を使うことが可能となります」


 薄くなった白髪頭を撫でながら、ショウグリフ先生は言う。


「諸君がすでに習ったであろう、炎の魔法や、強化魔法、治癒魔法といった魔法も、かつて先人たちが行った契約の賜物であります」


 ほうほう、それでそれで?


(また鼻息荒くなっているぞ、ミオン)




 授業が終わった後も興奮冷めやらぬわたしは、セレーナに言った。


「わたし、全然魔法のこと知らなかった。もっと詳しく知りたい!」


 するとセレーナはこう提案した。


「それなら、図書室へ行ってみる? 魔法に関する本がたくさんあるはずよ」




   ◆




 放課後、わたしはセレーナと話しながら廊下を歩いていた。


「セレーナの剣って、やっぱり由緒正しいものなの?」


 前から気になっていたことを訊ねると、セレーナは答えた。


「一応、我が家に代々伝わる、聖なる剣らしいわ。エリクシオンというの」

「聖なる剣、エリクシオン!」

(ミオン、今度はよだれが垂れそうだぞ)


「私の曽祖父が、この剣でアイアンゴーレムを貫いたと聞いているわ」

「……いいなあ。わたしのはゴブリンの持ってた、ただの短剣だし」

「また今度、一緒に買いに行きましょ」

「うん……」


 しかし、いい武器はいい値がするに決まっている。わたしの手持ちでは、結局今の短剣と大差ない剣しか買えないだろう。

 もっと魔物狩りしなきゃな……そんなことを考えていると、セレーナが立ち止まった。


「ここだわ」


 図書室は校舎の東の端にあった。


 天井までの高さがある、分厚い本のぎっしりと入った本棚が、部屋中を埋め尽くしている。

 少し暗めのその部屋の中央には、いくつかの長テーブルと椅子があり、そこで閲覧や自習ができるようになっていた。


 人は少なく、とても静かだった。

 メガネの女の子が一人、厚さ二十センチはありそうな本を開いて、黙々とメモを取っている。


挿絵(By みてみん)


 わたしは、書架へ向かうと、背表紙にある表題を読んで、魔法に関する本を探し始めた。


「薬草大全」

「水棲モンスターの弱点」

「魔物の系譜」


 と、指でたどっていく。


「近代魔法史」

「魔法・呪術一般」

「魔法の起源」


「この辺かな」


 わたしは、「魔法の起源」と、「魔法契約」の二冊を取り出す。


 そーっと、抱えながら本をテーブルまで運んだ。

 大判の、金で縁取られた立派な本だ。汚したり破ったりしないように気をつけないと。

 きっと、すっごく高いに違いない。わたしの手持ちじゃ、弁償できないほど。


 テーブルでは、セレーナが椅子に座って、本を開いている。


「何読んでるの?」


 わたしが小声で訊ねると、セレーナは表紙を見せてくれた。

 そこには、「魔法剣の種類とその使用法」とあった。


 魔法剣かあ、かっこいい! それに何か、セレーナに似合ってる!

 わたしは、セレーナのその本にも興味を惹かれたが、とりあえず、自分の持ってきた二冊の本を読んでみることにした。


 ふむふむ……えっと?


「――故に精霊の御名に置いて汝を保護せしめんには何をなすべきか。神の遣し給ひし者の御意を能く聴き得べし……」


 …………


 …………


 …………


 うぅ、わけわからん。


 米粒みたいに細かい字で鬼のように難しい文章が綴られている。

 わたしは本を投げ出したくなった。

 それでも目をしぱしぱさせながら、何とか小一時間読み続けた。



 わかったのは、どうやら魔法は先人たちが精霊や悪魔と契約した遺産であること。

 本が書かれた時点で、数百年間は新たに契約された魔法はないということ。

 そして魔法の契約には、魔法陣を使った儀式が必要ということだった。


 魔法陣についても調べたかったが、わたしの脳みそはそこで力尽きた。


「セレーナ、そろそろ帰ろうか」

「うん、ちょっと待って。ここ読んじゃってから……」


 セレーナがページをめくりながら言う。


 本を読んでるセレーナは絵になるなあ。

 そんなことを思いながら図書室内を見回す。

 残っているのは、わたしたちと初めからいたメガネの女の子だけだった。


 女の子はまだせっせとメモを取っている。


「勉強熱心だなあ」


 わたしが感心していると、別の勉強家の声が頭に響いた。


(ワガハイも、もう少し読んでいきたい)


「いいから! もう目と頭がくらくらする」


「ご、ごめんなさい」


 セレーナがパタンと本を閉じる。


「あ、ち、違うの。セレーナに言ったんじゃなくて……」


 不思議そうなセレーナに弁解しながら、わたしは図書室を出た。


 窓から夕日が差し込んでいる。

 メガネ女子のメモを取る音だけが、後に残された。




   ◆




 夜、わたしはベッドの上で天井を見上げていた。


(ミオン、最近考え事が多いようだが、何を考えているのだ?)


「うん、ちょっとね」


(どうも気になるニャ)


「……」


 わたしは何度も寝返りを打ちながら、悶々と考え続けた。

 そして、ついにがばと起き上がって言った。 


「きめた。やっぱり話そう」


(何のことニャ?)


 わたしは思い切ってにゃあ介に頼んだ。


「ねえ、にゃあ介。にゃあ介のこと、セレーナに話していい?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ