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第四百二十六話 乗馬2

「みんな、馬から下りるんじゃ!」


 ガーリンさんが叫ぶ。

 わたしたちは慌てて馬から降りる。


 空を見上げると、ワイバーンは気が変わったのか、また上昇していた。

 そのまま、遠くへと飛び去って行く。


「いや、驚いたな……」


 ガーリンさんが言う。


「こんなところまでワイバーンが来るなんてめずらしいことだ」


 そのとき気づく。

 一頭の馬が駆け出していた。


「大変だ」


 最後に馬に乗ったリーゼロッテは、降り方をまだちゃんと学んでいなかった。

 彼女が手間取っている間に、接近したワイバーンに驚いた馬が、興奮して走り出しまっていたのだ。


「リーゼロッテ!!」


 皆が追いかけるが、とても追いつけない。

 必死でしがみつくリーゼロッテを乗せたまま、馬は速度を上げていく。


 このままでは、まずい。


 一頭の、別の馬が、わたしの隣を通り過ぎる。

 ハッとして見ると、馬の背に、セタ王子がまたがっている。


「セタ王子!」


 セタ王子の乗った馬は、猛スピードで走っていく。

 馬は先を行くリーゼロッテの馬との距離を、ぐんぐん詰めていく。


「お願い、セタ王子……もう少し!」


 やがてセタ王子の馬は、リーゼロッテの乗った馬に追いつく。

 セタ王子は自分の馬をぴったり隣に寄せる。


 そのまま、王子は躊躇なく隣の馬へと跳び移る。

 王子の乗っていた馬は、減速し、離れる。

 リーゼロッテの後ろに跳び移ったセタ王子は、手綱を握って、


「どう、どう、どう」


 と声をかける。


 すると、あし毛の馬も減速していき……落ち着きを取り戻して、停止した。




   ◆




「ひえー! セタ王子! かっこよすぎ!」


 わたしは叫ぶ。


「まるで映画みたい! こりゃ、本物の白馬の王子さまだ!」


「じ、自分でも信じられません」


 王子は言う。


「無我夢中で走っただけなんです」


 馬上のセタ王子は、肩で息をしながら、言う。

 セタ王子の前で、リーゼロッテも息を切らしている。


「あぶないとこだったな! 二人とも」


 と、ガーリンさん。


「よくやった。えらいぞ、若い王子よ」


「すごいじゃない、セタ王子」

「ほんと、すごかった!」


 セレーナとチコリも言う。

 リーズも、


「やればできるじゃない!」


 と、手放しに褒める。


「リーゼロッテ、だいじょうぶ?」


 わたしが声をかけると、セタ王子の腕に抱かれるようにして前に座るリーゼロッテが肩越しに振り返って言う。


「ありがとう……セタ王子」


 我に返ったセタ王子はその状況に初めて気づいたようで、


「い、いいい、いえ! ととっとと、当然のことをしし、しただけで」


 しどろもどろになりながら言う。

 カチコチになりながら馬から降りた王子は、


「さささ、さあ、リーゼロッテさん」


 と手を差し伸べる。


「いや、なかなかできることじゃない」


 リーゼロッテは、


「……自らの危険を顧みず、私を救ってくれた」


 そう言いながらセタ王子の手を握る。王子が頭からぷしゅーっと湯気を吹き出した、ように見えた。


「ででではみみみなさん、ももももも戻りましょうか」


 セタ王子はリーゼロッテを馬から降ろし、歩き出す。

 しかし、舞い上がっているのか、手と足が一緒に動いてしまっている。

 それを見て、


「助け出すまではよかったのにね……」


 とため息をつくリーズに、わたしも同意するのだった。


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