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第四百二十四話 馬と厩舎と王子のあだ名

 ルミナス西の街道脇には、小高い丘があった。

 丘の上では、朝の日差しを浴びて、芝生が青々と茂っている。


 振り返ると、街道沿いには、旅行者や商人などが馬に乗って行き交っている。


「むふふ。いまにわたしも、あんなふうに、馬に乗れるようになっちゃうもんね」


 街道を離れ、丘を登る。

 しばらく歩くと、丘の上に、丸太を積み上げてできた、こじんまりとした家が見えてきた。

 その丸太小屋の隣に、厩舎らしきものが建っている。あそこで馬を借りられるようだ。


「あそこだ。おーい、おるか?」


 ガーリンさんが声を張り上げると、厩舎の中から、中年の女性が出てきた。

 女性はエプロンを身にまとい、革のブーツを履いている。


「おやまあ、ガーリンじゃないか」

「元気そうだの、ローサ」


「どうしたんだい、ガーリン。馬具の修理を頼んだ覚えはないんだけど」

「うんにゃ、今日は馬を借りにきたんだ」


 どうやら二人は顔見知りらしい。女性はわたしたちを見て言う。


「馬を? この子たちは?」

「魔法学校の生徒だ。今日は休日じゃが、馬術を覚えさせることになってな」


「魔法学校の生徒? またおどろいたね」


 女性は興味深そうにこちらを見る。


「あたしゃ、ここで貸し馬をしているローサだよ。馬に乗りに来たんだって?」

「はい! ここにいる三人に、教えてもらうんです」


「へえ。そりゃあよかった。私も手間がはぶけるよ。その三人は馬に乗れんだね?」

「はい。セレーナと、リーズと……セタ王子です」


 わたしが紹介すると、


「王子だって?」


 ローサが驚く。


「あ、お気遣いなく。王子って言ってもあだ名みたいなものなので」


 リーズがとっさに言う。

 セタ王子は、ぱくぱくと口を動かすが、結局何も言わず、頭を掻く。


「そうかい。いいあだ名だね!」


 ローサは、エプロンの上から腹をおさえ、カンラカンラと笑った。




   ◆




「この丘なら、馬の騎乗の練習をするにゃあ、ちょうどええだろう」


 ガーリンさんの言ったとおり、丘はゆるやかな斜面になっていて、街道が一望できる。


 ローサさんが、馬の手綱を引きながら、厩舎からやってくる。


「見晴らしがいいだろ?」


 やさしく馬の腹を叩くローサさんの眼差しには、馬に対する愛情がにじみ出ている。


「街道から離れているから、人目を気にせず練習できる。馬から落っこちても恥ずかしくないよ」

「あはは」


 ローサさんの冗談にわたしが笑うと、


「笑いごとならいいんだが……」


 リーゼロッテは多少、心配そうだ。

 チコリも、


「大丈夫かなぁ……」


 と、不安を口にする。


「だいじょうぶだいじょうぶ! ローサさんの馬は、きっとやさしい馬だよ!」


 わたしが言っても、


「根拠はどこに……」

「ミオンだって、全然乗れないくせに……」


 そんなわたしたちを見て、ローサさんは笑う。


「まあ、乗馬は慣れも大事さ。何度も失敗して、体で覚えるんだね」


 それから、ローサさんは、


「ガーリンもその三人に教えてもらえばいいんじゃないかい?」

「ドワーフは馬には乗らん」


 ガーリンさんはムスッとした顔で言う。


「あっはっは!」


 ローサさんはまた豪快に笑った。


「……それじゃ、頑張んな」


 わたしは、眼下の街道を眺めて、言う。


「ほんと、いい眺めだね。よし、さっそく練習しよう。……はやくはやく!」


 すると、にゃあ介が呆れたように言うのだった。


(張り切り過ぎて、ケガをするニャよ)


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