第四百二十二話 寮にて
「どしたの? セレーナ」
わたしが訊ねると、セレーナの後ろから、リーゼロッテが顔を出す。
「すまないな、ミオン」
リーゼロッテの後ろから、さらにチコリとリーズが現れる。
わたしたちとは別の寮の三人がここにいることに、ちょっとびっくりする。
「えへへ、おじゃまします」
「セレーナに会いに来たのよ」
リーゼロッテが頭を掻く。
「貸していた授業のまとめを取りにアルトリーチェ寮へ行くと言ったら、どうしてもついて行く、と言って聞かなくてな……」
わたしは呆れる。
「会いに来たって……毎日、学校で会ってるじゃない」
「それだけじゃ足りないもん」
「寮の部屋で会うのとは、違うわ」
チコリが言う。
「明日から休日なのに、何も相談してなかったでしょ。……何をします? セレーナさま」
リーズも言う。
「どこへ行く? セレーナ」
セレーナがこちらを見て、ため息を吐く。
わたしはベッドから起き上がって、
「ふたりとも子供なんだから……」
両手を広げてため息を吐くと、
「仕方ないから、談話室でお茶しながら決めよう!」
と談話室の方を指差しながら、意気揚々と歩き出す。
セレーナとリーゼロッテは、顔を見合わせると、言う。
「やれやれ、ミオンが一番乗り気なんじゃない」
◆
「やっぱりセレーナの淹れるお茶は、天下一品だね」
わたしたちは談話室のソファに座って、セレーナの淹れてくれたお茶を飲んでいる。
「ありがと」
セレーナが微笑む。
「ルミナスに、マクロムのお店というのがあって、私の実家で取り寄せているのと同じくらい、いいお茶を置いていてね」
「た、高いの?」
「そんなこともないわ。良心的なお店よ」
「よかったー。……ね、チコリ、リーズ、どう? おいしいでしょ」
二人を見ると、
「セレーナさまが、あたしにお茶を淹れてくださるなんて……ほんとはメイドのあたしが淹れないといけないのに」
「セレーナが淹れたお茶……いったい何年ぶりかしら。今日は記念すべき日だわ」
チコリとリーズは、恐れ多いといった様子で、うやうやしくカップを口へ運んでいる。
「セレーナは、なんでそんなにお茶を淹れるの上手なの?」
料理の腕は、かなりアレなのに。
「淹れ方はユリナに教わったの」
「へえ~。苦労したんだろうな……ユリナさん」
「ユリナが? どういう意味?」
「な、なんでもないよ! それで」
わたしは切りだす。
「明日はどこへ行こうか?」
「そうだな……」
リーゼロッテがカップを置いて、
「みんなで試験勉強をするというのは……」
「却下」
わたしは即座に言う。
「な、なぜだ」
「それは、休日って言わないから」
「そうか?」
リーゼロッテは残念そうに言う。
「せっかくだから、休日らしいことをしようよ」
「だったら、買い物は?」
チコリが顔を輝かせて言う。
「うん、それもいいんだけどさ」
わたしはうなずいて、
「もっと何か特別なことないかな。せっかくの連休なんだから、多少ハメを外してもいいんじゃない?」
「ハメを……」
「外す?」
「具体的に何をすればいいの?」
セレーナが首を傾げる。
わたしはしばらく考えたあと、
「そうだ! わたし、前からやりたかったことがあるの」
ポンと手を叩く。
「……またミオンが何か思いついたぞ」
リーゼロッテが笑った。