第四十話 魔法で魔物狩り1※挿絵あり
さて、今日も休みだ。どうするか……。
買い物行こうにも、お金がないのよねー。
がば、と起き上がってわたしは言った。
「よし。久しぶりに魔物狩り、行くか」
談話室へ入ると、セレーナが長椅子に腰掛けている。
「ねえ、ミオン、今日はどこへ行くの?」
そうセレーナは訊ねてきた。
「え、あ、あの、えっと、ちょっと魔物狩りに……」
「魔物狩り?」
「わたし、お金あんまり持ってなくてさ……狩りに行かないと、授業料払えないんだよね」
わたしは頭を掻きながらそう言った。
「ふーん」
と、セレーナ。
「魔物狩りへ行くの……」
セレーナは何か言いたそうだ。
「どうしたの?」
「私、暇なのよね……一体何をしたらいいかしら」
「?」
「困ったわ。何だか、身体を動かしたい気もするし」
(おい)
とにゃあ介が言う。
(誘って欲しいんじゃニャいのか)
え、セレーナも?
(どう見てもそうだろう)
でも、危なくないかな? 魔物狩りに連れて行くなんて。
(大丈夫ではニャいか? 魔物と戦っているときの動きを見ただろう。剣技の腕前は相当なものだ)
そっか。うん。そだね。
わたしは、さり気なくセレーナに訊いてみた。
「セレーナも行く?」
すると、
「ええ!」
間髪入れずにセレーナはそう答えたのだった。
◆
寮を出ると、わたしたちは真っ直ぐ冒険者ギルドへ向かった。
朝の光を浴びながらギルドまでの道を走る。学園都市の屋根屋根が陽に照らされて、眩しいくらいにキラキラ輝いている。
気持よくジョギングを楽しみながら、ギルドへ到着。
少し心配しながら扉を押してみる。
「あ、開いてる」
「よかったわ。こんな時間からでもギルドは開いているのね」
中へ入ると同時に、リンコさんが、
「いらっしゃいませ、おはようございまーす!」
と、挨拶してくる。
「おはようございます」
わたしもそう挨拶を返して、
「あの、ちょっとうかがいたいんですけど」
と訊ねる。
「はい、何でしょう!」
「この辺に、魔物の狩れる場所ってどこかありませんか?」
リンコさんは目をパチクリさせたあと、また元気よく答えた。
「それでしたら! 『ワイナツムの洞窟』がよいかと存じます!」
「ワイナツム?」
「はい。学園都市から少し離れた高台にあって、上層階は弱い魔物。下層へいくとCランク相当の魔物まで出現するので、様々なレベルの冒険者様におすすめできます!」
「へえー」
(よさそうではニャいか。丁度身体が鈍っていたところだ。その洞窟の最下層を目指せ)
「うん。……すいません、詳しい場所教えてもらってもいいですか」
もじゃもじゃ頭のリンコさんは、言った。
「もちろん、よろこんでお教えしますよ!」
◆
リンコさんに教わった場所へは、一時間もかからずに着くことができた。
学園都市を見渡せる高台で、周りにはまばらな木と岩場が続いている。
そんな中、急斜面になった岩壁に、黒い穴がぽっかりと口を開けていた。
「これがワイナツムの洞窟ね」
セレーナが言う。
リンコさんによると入り口は狭いが、中は広いらしい。
少し内部を覗くと、灰色の岩が積み重なった壁が奥へ続いている。どことなく人工的なダンジョンという感じだ。
最下層には、かなりの強敵が出るとか。
「よし」
わたしたちは早速足を踏み入れる。しかし――
「ちょっと暗すぎるわね」
数歩進んだだけで、足元が見えないほど中は暗くなっていた。
(ふむ。ナザーロと違ってランプがないな)
「ダメだ。ランプかたいまつを用意しないと無理だわ」
わたしが帰ろうとすると、
(待て待て、ミオン)
「待ってミオン」
と、にゃあ介とセレーナが同時に止める。
「え?」
(セレーナの方がわかっているな)
「何?」
訊ねるわたしにセレーナは、こんなの明らかでしょと言いたげに答えた。
「ミオン、何のために魔法を習ったの」
◆
呪文を唱えると、わたしの手から炎がほとばしる。
熱風が手に吹きつけ、顔にも熱を感じる。
その熱を、集めて飛ばす。
火の玉が、洞窟内を飛んで行く。
それに照らされて、岩肌が順に明るくなっていく。
向こうの壁にあたって、火の玉は弾けた。
「コントロールが難しいわね……」
(後は練習だニャ)
「そうね」
わたしは、ふう、と溜息をつく。
「すごい!」
セレーナが言う。
「改めて見ても、すごいわミオン。あなたって、魔法の才能あるわ」
「そうかな、えへへ……」
わたしが照れていると、
「よし、それじゃあ次は私の番ね」
セレーナは言った。
「私、ミオンから習った呪文、あれからずっと練習してましてよ」
セレーナは両手を前に構え、呪文を唱え始めた。
「我求めん、汝の業、天に麗ること能わん……」
セレーナの手の先に、小さな火の玉が発生する。
「ダークフレイム!」
掛け声とともに放たれたその火の玉は、洞窟の壁へ飛んで、パチッと弾けた。
「わあ!」
(おお、なかなかやるではニャいか)
魔法を放ったセレーナは無言だ。
「……セレーナ?」
わたしが声をかけると、我に返ったように、
「できた……」
とつぶやいた。そして、
「やった! やったわ!」
セレーナは飛び上がって喜び始めた。
「見まして? ミオンのよりは小さいけれど、私、できたわ!」
「うん、見たよ。やったね、セレーナ」
わたしも我がことのように嬉しくなった。
「ミオンのおかげよ。さあ、もっともっと練習しましょう」
◆
小一時間も練習していると、大分、炎のコントロール法がわかってきた。
手から飛ばした後、少しなら軌道を変えられること、片手で炎を発生させることもできること。
そして、発生させた火の玉を、飛ばさずに手元へ残し、たいまつの代わりに使えることもわかった。
「これ、すっごく便利」
「魔法を学びたいって人が後を絶たないのもわかるわね……」
わたしたちは、顔を見合わせ、言った。
「それじゃあ……」
「行きましょ、下の階層に」
わたしとセレーナは、左手に炎を発生させ、それを掲げて洞窟内を進んだ。
◆
一つ階層を降りたわたしたちの前に、見覚えのある敵が現れた。
あれは……ゴブリンガードだ。
「結構強敵だけど、前も倒せたし……今のわたしたちなら楽勝だよね?」
「そうね、いくわよミオン。魔法を試すチャンスよ」
(敵をあなどるニャよ、ミオン)
わかってるって。
「いくよ、セレーナ」
「我求めん、汝の業……」
「我求めん、汝の業……」
わたしたちは二人で呪文の詠唱を始めた。
しかし……、
(バカ者、二人同時に隙を作ってどうする!)
にゃあ介の指摘はしかし遅かった。
ゴブリンガードは、身構える前に襲いかかってきた。
「きゃあっ」
敵がわたしたちに切りかかる。
何とか身をかわすが、セレーナとわたしの手から明かりが消えた。
そして、周りは闇に包まれる。
(この暗闇……まずいニャ)
わたしは剣を抜いた。
額から冷や汗が流れる。
本当にまずい。
次の瞬間にも、自分の首が跳んでいるかもしれない。
極度の緊張状態で、口の中がカラカラに乾く。
と、何か聞こえた。
セレーナが再び呪文の詠唱に入ったのだ。
(いかん、敵に居場所がバレる)
ハッとしたわたしは反射的に叫ぶ。
「だめよ、セレーナ!」
セレーナの手に炎が灯る。
その光に周りが照らされる。
ゴブリンガードが、セレーナの方へ真っ直ぐに向かっていた。
「危ない!」
わたしは全身全霊の力を足に込めて、跳んだ――。




