第四百五話 ガーゴイル戦1※挿絵あり
翼を持つ怪物たちが、次々と飛来する。
「グワアアア!!」
ガーゴイルの一匹が、上空から襲い掛かってくる。
わたしは咄嗟に屈んで避ける。ガーゴイルの爪が頭上をかすめていく。
「みんな、気を付けて!」
わたしはそう注意する。
しかし、言った傍から他チームの生徒の一人が狙われる。
ガーゴイルは生徒めがけて空から急襲する。
「きゃああっ」
――ガキン!
ガーゴイルの爪が生徒の顔面を捉えた、と思った刹那、生徒の前に立ちはだかった者がいる。
フードを深く被ったその参加者は、剣で敵の爪を防いでいた。
「グウゥゥ……」
フードの参加者とガーゴイルがせり合うなか、今度は別の生徒が狙われる。
一匹のガーゴイルが、上空でホバリングしたかと思うと、何か声を発した。
ただのうめき声ではない。それは……
「詠唱している!――魔法だわ!」
セレーナが短く叫ぶ。
ガーゴイルの口元に炎の玉が発生する。
火弾が生徒に向かって飛ぶ――
「あぶない!」
後方から、先ほどとは別のフードを被った参加者が、生徒の頭を押さえて倒れ込む。
間一髪、炎の魔法はそれ、石畳の上で弾ける。
「あ、ありがとう」
生徒が、フードの参加者に礼を言う。
わたしは、首を傾げる。
「誰だろう? あれ」
見ると、フードを被った参加者は、全部で三人いる。
フード姿の三人は、他の生徒たちと、明らかに動きが違った。
「ミオン! 来るぞ」
リーゼロッテの言葉に振り返る。
上空に何匹ものガーゴイルが旋回している。
(特訓の成果を見せるときニャ)
「うん」
わたしはガーゴイルの動きを凝視する。
ガーゴイルがうめく。
「詠唱を見て……避ける!」
さっと身をかわすと、炎の魔法がわたしの横を通り抜けていく。
見上げた上空のガーゴイルの形相は、驚きの表情にも見えた。
「よし! 避けられる!」
わたしは拳を握る。
「みんなは、だいじょうぶ?」
「ええ!」
「ああ、避けられる」
「私も!」
周りを見ると、セレーナ、リーゼロッテ、リーズ、チコリ、セタ王子まで、ガーゴイルの魔法をことごとく避けている。
ガーゴイル戦を想定した特訓のおかげだ。
「でも……」
ガーゴイルの魔法はなんとか攻略できそうだ。
しかし、上空の敵に反撃するのが難しい。
「はああっ!!」
リーズが大声を上げ大剣を振るう……が、上空のガーゴイルへは届かない。
「えいっ! やあっ!」
チコリのナイフは、言わずもがなだ。
「もうっ、卑怯よ! 降りてきて戦いなさい!」
じれったそうに叫ぶリーズ。
そのとき、背後からリーズたちの方へ、一匹のガーゴイルが急降下していく。
ガーゴイルが狙っているのは……チコリだ。
「まずい!」
リーゼロッテが叫ぶ。チコリは棒立ちだ。
ガーゴイルの爪がチコリの後頭部に迫る――
間に合わない!
と思った瞬間。
突然、ガーゴイルが、
「グギャアアアアア!!!」
甲高い悲鳴を上げ、そのまま地面に激突する。
チコリの横を、墜落したガーゴイルが転がっていく。
「なに? 何があったの?」
わたしが訊くと、
「彼らがやったんだ」
リーゼロッテが神殿の入り口の方を指差す。
そこには、先ほどの三人組の姿があった。
わたしは目を凝らす。だが、三人はフードを被っていて、顔がよく見えない。
ガーゴイルたちの一部が、三人組に標的を定め、襲い掛かる。
三人組の一人が空を見上げ、何かを構えた……かと思うと、ガーゴイルが悲鳴を上げ、真っ逆さまに落ちる。
「強い!」
セレーナが声を上げる。リーゼロッテが言う。
「あんな強いチームが、うちの学校にいたか?」
三人組は、上空へ向かって、何らかの攻撃をしかけながら、こちらへ駆けてくる。
ガーゴイルが、一匹、また一匹と落下していく。
「耳だ!」
三人組の一人が叫ぶ。
「耳を狙え!」
ガーゴイルがこちらへ突進してくる。
にゃあ介が言う。
(言われた通りやってみるニャ)
わたしは考える間もなく、魔法を詠唱する。
接近してくるガーゴイルめがけ、炎の魔法を放つ――
言われた通り、耳を狙って。
「ギャアアア!!!」
ガーゴイルが悲鳴とともに墜落する。
「本当だ。本当に、耳が弱点なんだ!」
わたしは驚く。
「そのようね。だけど不思議だわ。あのチームの強さ」
セレーナはフード姿の三人組を目で追っている。
三人組は、確実にガーゴイルの耳を狙って撃墜していっている。
「それに、なぜリーゼロッテも知らないような情報を知っているのかしら」
すると、リーゼロッテが言った。
「私はだんだん分かってきたぞ」
わたしは訊く。
「何が?」
リーゼロッテは答える。
「あの三人の正体だよ」
「えっ!」
「とにかく、今は戦いに集中しよう」
「……うん」
わたしはうなずく。
「リーズ! チコリ! セタ王子! 耳を狙うの!」
三人に向かって、声を張り上げる。
「魔力コントロールの特訓を覚えてる? あの要領だよ!」




