第四百一話 登山開始
魔法学校の南西にあるヌール山。
馬車で移動した参加者たちは、今その麓に立っている。
リーゼロッテは羊皮紙を広げて、指さしながら話す。
「今ちょうどこの辺りだ」
紙を覗き込んだわたしは、声を上げる。
「あっ、地図!」
「授業の合間に図書室へ行って、地図を写し取っておいたんだ」
「そっかぁ。さすが!」
わたしは言う。
(ミオンは、まったく忘れていたんニャろ)
「……わたしはほら、食料調達担当だから」
そういってわたしは水の入った革袋と干し肉を掲げる。
「食料のことはミオンに任せておけば安心ね」
「てへへ……ってそれ褒めてる?」
わたしは頭を搔きながら、ふとチコリたちのことが気になって振り返る。
三人はすこし後方にいた。
「あ、チコリたちも地図もってきたみたい。よかった」
セタ王子の広げた羊皮紙を、チコリとリーズが両側からのぞき込んでいる。
「山頂はこのあたりだから……聞いてるか、ミオン?」
「え? あ、ごめん」
わたしはまた頭を掻いて、
「いやー、助かるよリーゼロッテ。地図がなかったら、方向わかんなくなるもんね」
「いいんだ」
リーゼロッテは答える。それから、
「……険しい山だ。道中も心してかからなければ」
「うん」
わたしは山腹へ目をやる。
山の斜面に山肌をえぐるようにして通された細い道が見える。
「蟻の巣みたいな道だね」
「それでもあるだけマシだ。途中からは道もなくなる」
そう言われて、山の上の方に目を凝らす。
リーゼロッテの言う通り、道といえる道があるのは山の三合目あたりまでのようだ。
「大きいなぁ……」
見上げると、険しい尾根が天を切り裂くみたいにそびえている。
頂上は青空と交わり、よく見えない。
「あそこに神殿跡があるのね……」
セレーナがつぶやく。
わたしはうなずく。
「うん。そして優勝カップも!」
「できるなら、暗くなる前に着きたい」
リーゼロッテが地図を畳みながら、言う。
みな同じ考えなのか、半数くらいのチームはすでに登山を開始している。
「急いだほうがいいね。二人とも、準備はいい?」
わたしが訊くと、セレーナとリーゼロッテがうなずく。
「よし、じゃあ行こう!」
◆
「ふひー」
わたしは額の汗をぬぐう。
「今日は昨日とちがって暖かいね」
わたしは革袋の水を飲む。
「ええ」
セレーナがうなずく。
「水を飲み過ぎてはだめよ。配分を考えないとね」
「う~。がぶがぶ飲みたいなあ」
わたしは一口で我慢する。
木々の枝から垂れ下がるツタやツルを、手で払いながら歩く。
「頂上までずっとこんな感じ?」
「言っただろ。こんなのは序の口だ」
「うぇ~」
心が折れそうになるが、
「よしっ」
わたしは腿をペシッと叩くと、気合を入れ直して一歩を踏み出す。
そのとき、
「うわあああっ!」
前方で叫び声がした。




