第三百九十九話 手合わせ
リーズは棒切れを拾い、セレーナと対峙している。
「どうなるかな?」
「ふむ、興味深いな」
わたしとリーゼロッテは、すこし離れて見守っている。
幼い頃から、一緒に剣の稽古をしていたという二人。
リーズはグランパレスの隼として力をつけ、セレーナはわたしたちと共にその剣を磨いてきた。
久しぶりの手合わせの結果はどうなるのか、非常に気になる。
と、後ろで声がする。
「セタ王子、あたしたちもやってみない?」
「何をですか?」
「手合わせだよ」
「えっ」
「この間の第二試練。もっと活躍できたらいいな、と思ったでしょ? あたしたちだって、戦力にならなくちゃ」
「……わかりました」
セタ王子とチコリ?
こっちでも面白そうなの、始まってる!
「いくわよ!」
リーズが風のような速さでセレーナに詰め寄る。
「はやい!」
わたしは声を上げる。
二本の木の棒が交差し、
パシィッ!
という音を立てる。
二人は棒を隔てて、目線を合わせている。両者とも、その目にはなんだか楽しそうな光が宿っている。
「はじまったね」
一方、後ろへ視線を移すと、
「いくよ!」
チコリが、それなりの速度でセタ王子に走り寄る。
「こ、こい!」
セタ王子が棒を構える。
そこへ、チコリが自分の棒を振りかぶり――
「えいっ」
二本の棒が、
ぺしっ
と音を立てる。音はしょぼいが、二人の目にあるのは、心からの必死さを表す光……。
「がんばれがんばれ、セレーナ・リーズ! がんばれがんばれ、チコリ・セタ! がんばれがんばれ四人とも!」
わたしは応援に熱を入れるが、リーゼロッテに、
「ミオン、ちょっとうるさい」
と言われ、口をつぐむ。
「そうか、きっと気が散るよね」
わたしは黙って四人の戦いを見つめる。
棒を合わせたままのつばぜり合いがしばらく続き――
まずセレーナとリーズが動く。
「ていっ!」
リーズが素早く棒を振る。リーズの攻撃を正面から棒で受け止める。
リーズがもう一度振る。セレーナは再び受ける。
リーズの連続攻撃が続く。リーズが棒を振る――セレーナはさっと身をかわす。
もう一度受け止められると思っていたリーズは面食らい、体勢を崩す。
すかさずセレーナが斬りかかる。
だが、リーズは驚異的な足腰の粘りで、体勢を崩しながらも薙ぎ払いをカウンターで繰り出す。
セレーナはその動きを読んでいたかのように、踏み込みを一瞬遅らせる。
セレーナの眼前数センチを、リーズの棒の先端が通り過ぎる。
振り下ろされる、セレーナの攻撃。
普通だったら、ここで決着がつくところだ。
だが、リーズは身体をよじるようにして、紙一重でかわす。
セレーナの反撃が始まる。リーズは防戦一方だ。
「くっ」
リーズが後ろに大きく下がり、間合いを取ろうとする。セレーナは逃さない。
後ろへ跳んだリーズに対し、ものすごい勢いでセレーナが距離を詰める。
「!」
リーズは、棒を構え、咄嗟に攻撃を防ごうとする。
しかし――。
「あっ」
セレーナが薙ぎ払うように振った棒が、リーズの棒を遠くへ弾き飛ばす。
「勝負あり、だな」
リーゼロッテが言う。
リーズが悔しそうに唇を噛む。
「セレーナ、やっぱり強くなってる」
「凄い! Sランクのリーズに勝っちゃうなんて」
セレーナは微笑み、
「真剣だったらどうなったかわからないわ。リーズはいつも両手剣だものね」
「……私とセレーナが真剣で勝負するわけないでしょ」
リーズが言うと、セレーナは、
「リーズの持ち味はパワーよ。この木の切れ端じゃ、リーズにとっては自分の剛腕を活かせないハンデ戦みたいなものだわ」
「……」
「そっかぁ。じゃあ、実戦じゃリーズが有利ってこと?」
わたしが言うと、リーゼロッテがつぶやく。
「……今まではそうだったかもしれないが、魔法剣を覚えた今はわからないぞ」
わたしはもう一方の戦いへ目を移す。
チコリとセタ王子は、棒で打ち合いをしている。
「えいっ、えいっ」
チコリが連続攻撃を仕掛けたかと思えば、セタ王子はそれをしのぎ切り、
「やあっ、やあっ」
反撃に打って出る。
その技はまだまだ未完成だ。だが、二人の技量がよほど近いのか、なかなか勝負がつかない。
二十分も打ち合っただろうか。二人とも体力が尽き、
「はぁはぁ……」
「ぜぇぜぇ……」
肩で息をながらも棒を振るのをやめない。
「動きが老人みたいになってる……」
わたしは見かねて言う。
「そこまで。よしよし、二人ともよく頑張ったね。いい戦いだったよ!」
しかし二人はあきらめない。
「しょ、勝負はまだついてないわ」
「ま、負けませんよ」
「いいから! 勝ち負けはまた今度に持ち越し。今日はここまで!」
わたしが言うと、二人は地面にへたり込んでしまう。
「ふぁ~、疲れたー!」
「もうダメです……」
「あはは、実力伯仲だね! いいライバルだよ」
わたしは訊ねる。
「ライバルと戦うのは楽しいでしょ?」
二人は言う。
「うん……疲れたけど……」
「とても楽しかったです」
その言葉に、わたしはうんうんと首を縦に振る。
戦いとは全く無縁だった二人が、ライバルとしのぎを削る喜びを知ってくれて嬉しい。
「おいミオン、あれ」
リーゼロッテに言われ、リーズとセレーナに視線を戻す。
「今度は負けないわ」
「望むところよ」
二人は第二回戦を始めようとしている。
わたしは呆れて言う。
「もう! みんな、戦うの好きなんだから!」
(ミオンも人のことは言えないニャろ)
「その通りだよ」
にゃあ介に言われて、わたしはニッと笑う。
「……ちょっとー、わたしも混ぜてよ~!」
わたしは棒を拾って駆けていく。
にゃあ介の呆れる声が聞こえる。
(……やれやれ、ニャ)




