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第三十二話 学校生活1

 遠足に行く前の子供のように、興奮と緊張で朝早くに目が覚めてしまった。


 今日から授業が始まる。

 魔法の授業。わたしはついていけるだろうか。


(案ずるより産むが易しニャ)

「難しいわ、にゃあ介の助言。もっと、わかりやすく言ってよ」


(わかりやすく言っているつもりニャのだが)


 にゃあ介とそんな会話をしながら談話室へ向かう。

 中へ入ると、長椅子でセレーナが優雅にお茶を飲んでいる。

 

「セレーナおはよう」

「おはよう、ミオン」


「今日から授業だね……寝れた?」

「ぐっすり、と言いたいところだけど、あまり眠れなかったわ」


「セレーナも?」

「ええ。緊張してしまうわ」


「わたしも全然眠れなくってさー」


 そんな風にセレーナと話していたら、緊張が解れてきた。

 ついつい話し込んでしまう。


(おいミオン、そろそろ行かないと遅刻するニャ)


「おっといけない」

「大変、もう行かないと」




 寮から出てしばらく行くと、学校へ向かう上り坂だ。

 並木からこぼれる朝日が、寝不足の瞼に沁みる。


 でも、それですっかり目が覚めてきた。

 期待と不安のないまぜになった、複雑な気持ち。そういえば小学校や中学校に初登校するときもこんな気分だった。


 校門のところで、髭もじゃのドワーフが生徒たちに挨拶している。


「おう、ミオンにセレーナおっはようさん」

「おはよう、ガーリンさん!」


「今日が初日だな。まあ頑張れや」

「うん、ありがとう」


 ガーリンさんはそのグローブみたいな手をブンブンと振って見送ってくれた。




 芝生の中を校舎へ向かう道を歩く。校舎は朝日を受けて、わたしたちを待ち構えている。

 始めの一歩を踏み入れると、深い満足感とともに、背筋の伸びる思いがした。


「最初の教室は、ええと、こっちね」


 セレーナが言った。

 最初の授業を受ける教室は渡り廊下の向う側にあるらしい。

 屋根のついた石の渡り廊下を歩いていると、後ろで聞き覚えのある声がした。


「オイ見ろよ、あれだよあれ」


 ケインだ。


(ほう、あいつも受かったのか)


 と、にゃあ介。


「あれが補欠合格のネコ娘だぜ」


 わたしは恥ずかしさで俯く。


「くぅ~」


 悔しいけど、事実なので何も言えない。


 セレーナがわたしに言う。


「ちょっと黙らせてくる」

「待って待って」


 わたしは慌てて止める。


「本当のことだし……わたし、筆記0点だったの」

「0点……えっ、本当に?」


 わたしはますます俯く。セレーナに軽蔑されるのは、嫌だな……。


「すごい! すごいわミオン!」

「え?」


「0点で受かるなんて、すごいことよ! 信じられないわ。0点で!」

「ちょ、ちょっとあんまり大声で言わないで……」


 軽蔑はされなかったみたいだけど、恥ずかしいのにかわりはない。

 後ろから、ケインたちの、からかうような笑い声が聞こえてくる。


「気にしちゃだめよ。私の周りにも、ああいうのはたくさんいたわ。これから見返してやればいいのよ」


 セレーナはそう言ってくれた。


「ありがとう。わたし、頑張る」




   ◆




「とうとう始まるんだ……」


 興奮気味のわたし。

 教室には編入生だけが集められていた。

 見回すと、わたし以外のみんなも、結構緊張しているように見える。


「そういえば、高校に入って最初の授業って覚えてないなあ。絶対こんなに興奮してなかった。それだけは覚えてるけど。……あっ来た」




「諸君」


 先生は、扉を開けて教室へ入ってくるなり言った。


「君たちは編入生ということでまずはしっかりと基礎から学んでもらう」


 おなかの出た、貫禄のある先生だった。白髪交じりの頭は、随分薄いところが目立つ。


「誰もがすぐに魔法を使いたがるが、基礎が何よりも大事であることを忘れてはならない」


 先生は続けた。


「私は魔法学総合のショウグリフ。以後お見知り置きを」


 そして教室内を見回し、


「魔術は、大別すると、白魔術、黒魔術、時の魔術の三つに分けられる」


 ショウグリフ先生は腕を組んでウロウロと歩き回りながら言った。


「対象に悪い影響を与えるものを黒魔法、対象を癒やしたり補助したりするものを白魔法と呼ぶ」


 ちょっとにゃあ介、黒魔法白魔法だって! すごい。ゲームみたい!


(あまり興奮するにゃ。鼻息があらいぞ)


「時の魔法は黒魔法に含まれるなど諸説あるが……本学では、私のこの魔法学総合と、白魔術、黒魔術、時の魔術、それから薬草学を教える」


 一度、みんながちゃんと聴いているか確認するかのように、見渡す。


「我々は多少の差はあれどほとんどのものが魔力を持っている。魔物とて例外ではない」


 ふうー、と鼻から息を吐き、


「ではそもそも、魔法とは何か。魔法のもつ不思議な力はどこから来るのか。わかる者はいるかな」


 ショウグリフ先生は全員を見回した。


「それは、ここ」


 右手の人差し指で、こつこつとこめかみを叩いて言った。


「ここから来るのです」


 そして後ろで手を組んで歩き回りながら話した。


「よろしいかな? 大事なのはイマジネーションの力です。魔法とは想像力なのです」


 すごい。普通の学校の授業とは訳が違う。

 わたし、今、魔法を習ってる!


「目を閉じてご覧なさい。体の奥に何かを感じたら、それが魔力です。わたしたちの身体を流れる、深遠なる力の源泉。血液が肉体の力の源だとすれば、魔力は精神の力」


 わたしは目を閉じてみた。何かを感じるような気もするし、何も感じないような気もする……。


「そのように身体に流れる魔力を感じたら、次に身に纏った魔力を手に集中させる。これを魔力を練るという。魔法を使うには、練った魔力を一気に放出する。魔法とは魔力を媒介にイメージを具現化させる力だ。これからはこの魔力を練るのを常に意識して練習しておくように」


 わたしは授業を夢中で聴いていた。前の世界でもこんな内容だったら、授業中に船を漕いで怒られることもなかったのに。




 あっという間に時間は過ぎた。


「……以上で、本日の私の講義は終わりだが、大事なことがもうひとつ」


 ショウグリフ先生は言った。


「魔力も学力も同じ。いや、他のあらゆる物事と同じように」


 この言葉が、授業の締めくくりだった。


「練習すればするほど、強くなるのです」


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